「現在、東京駅は復原によって赤レンガ駅舎がシンボルになっています。しかし、1990年前後には赤レンガ駅舎を取り壊して高層ビルに建て替える構想が浮上していました。当時の市長が、深谷にゆかりのある東京駅赤レンガ駅舎がなくなるのは忍びない。そういった理由から、深谷駅を東京駅にそっくりなデザインに建て替えることにしたのです」と話すのは、深谷市教育委員会教育部文化振興課の担当者だ。

 こうして、深谷駅は1996年に東京駅とそっくりなデザインに建て替えられた。一方、高層化が検討されていた東京駅の計画は自然消滅した。そのため、赤レンガ駅舎を取り壊すことも白紙撤回された。

 実は東京駅の赤レンガ駅舎は戦災で破壊されており、戦後に応急処置として復旧した。復旧工事の際、資材は不足していた。営業再開を急ぐあまり、国鉄は後から元のデザインに戻すとしていたが、結局はそのままのデザインで使い続けられた。そのため、開業時と戦後の東京駅は、微妙に様相が異なる。戦後、地元住民などからは往時の姿へと再建する要望も出た。しかし、その願いは叶わなかった。

 東京駅の高層化計画を撤回したJR東日本は、復原事業に取り組む。こうして、2012年に東京駅赤レンガ駅舎は開業当時の姿へと戻った。

 赤レンガ駅舎として甦った東京駅、そして東京駅の消滅を危惧して新たに生み出された深谷駅。両者は、いわば兄弟のような関係にある。

 そして、深谷駅が立地する深谷市は新一万円札の顔になる渋沢栄一の生誕地でもある。1996年の駅舎リニューアル時に、深谷市は駅前広場に渋沢栄一の銅像を建立。そうした所縁があるので、新一万円札の顔に渋沢栄一が決まった報を受けて、地元・深谷市は大いに沸いているという。

「深谷市と渋沢の関係は非常に深いものがあります。小学校では渋沢栄一について学ぶ授業もあり、学年に合わせた副読本も制作しています。また、市内には渋沢を顕彰する渋沢記念館があります。これは駅舎を赤レンガにリニューアルしたときと同じ、1996年に開館した記念館です」(同)

 新一万円札には、鉄道との深い関係が込められている。

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