◆科学者は、いわばロジック教の信者
何より圧倒されるのは、鶏肉を通して見える、理屈抜きに理に適った現象の凄さだ。そうした現象に対して問いを発見し、合理的な答えを導きだす喜びは、古代から人類共通にあったはずだと、川上氏は言う。
「僕ら科学者はいうなればロジック教の信者みたいなもの。もちろん科学でもまだ解明できない現象もあるし、理論は後付けの場合もあるけれど、モスチキンについているあの骨がどんな働きをしていたのかとか、知らないよりは知った方が、みんながハッピーになれると僕は信じています。
それこそ鳥は1億5千万年も前から空を飛んでいて、長い時間をかけてブラッシュアップされたメカニズムの凄さが、鳥にはわからなくても僕らはわかる。小笠原諸島の環境保全の仕事も、管理しないと外来生物に侵略されて面白いものが見られなくなってしまうから、種を減らさない方法もやむなく研究しているだけです。面白いものをもっと見たい、そして考えたいという好奇心が、僕の原点なんです」
環境問題も生物多様性も関係なく、目の前の鶏肉にひたすら興奮できる鳥類学者は、本書を「マンチキン」(オズの国の住人)と呼んでほしいという。
「副題にもあるように、人とチキンで、マンチキンです。食だけに留まらない長くて身近な関係を本書が再発見するきっかけになれば嬉しい。もちろん鶏肉を食べながらですけど!(笑い)」
【プロフィール】かわかみ・かずと/1973年大阪府生まれ。東京大学農学部林学科卒。同大学院農学生命科学研究科中退。農学博士。現在は「国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所森林研究部門野生動物研究領域鳥獣生態研究室主任研究員戦略研究部門生物多様性研究拠点併任」と、〈寿限無〉級に長い肩書きを持ち、つくばを拠点に小笠原諸島での鳥類の進化と保全の関する調査研究に従事。著書は他に『美しい鳥 ヘンテコな鳥』『そもそも島に進化あり』『トリノトリビア』等。172cm、A型。
構成■橋本紀子 撮影■横田紋子
※週刊ポスト2019年4月26日号