そうして陥りがちな「長時間労働」の弊害について、菊入氏が続ける。
「自分の自分に対する評価は高く保っていたいもので、自分は有用な人でありたいと思うのが人間の基本的な心理です。仕事がうまくできないということが起こったとき、能力が低いから時間内にできなかったのだと思うと、自分の自分に対する評価が下がってしまうので、『課題が難しすぎる』『上司が無理難題を言う』『物理的に仕事の量が多すぎる』と別のところに理由を求めるようなる。すると、それを証明するためにもっと長い時間を仕事にかけるようになる。悪循環に陥ってしまうのです」
高度成長期に比べていまは目に見える成果が出しにくい時代である。専門性が問われ、業務が細分化されたために、自分の働きの成果も見えにくい。そのため、目に見えてがんばっていることがわかる「長時間労働」に逃げ込んでしまう。だが、会社の本来の目的は利益を上げることによって、ステークホルダー(社員などの利害関係者)の幸福を最大化することのはずだ。
かつて取材した、人材派遣会社を経営する40代のH氏はこう語っていた。
「経営者は社員に定時で帰ろうというが、当然ながら利益は維持しようとする。つまり、時間当たりの生産性をアップさせなければならないということ。短い時間で同じ成果を出そうとすると、やり方を見直すことになる。自分がやるべき仕事とそうでない仕事、必要な仕事と無駄な仕事も考えるようになる。量を増やすのは簡単だが、質を高めるのは容易ではない。実は短時間労働のほうが、働き方としてはある面で厳しいともいえるのです」
定時帰りをすることで人生そのものが「ハッピーアワー」になるなら、GW明けからそんな仕事のスタンスを取り入れてみてもいいかもしれない。
●取材・文/岸川貴文(フリーライター)