しかし仮にすべてが1回戦負けだと年収は数十万ほど。小学生ならそれでもすごいと思うだろうが、30歳になっても、60歳になっても、その可能性はゼロではない。年齢が上がると若手棋戦などにはエントリーできなくなるので、むしろ参加棋戦が減り、対局数もおのずと減ってしまう。トップ棋士以外は、アマチュア指導や解説、テレビ出演などの収入に頼っている。厳しい世界なのだ。
かの井山四冠も中学1年生でプロになった。初の収入明細を見た井山四冠の母親は、「1か月で数万円だけ。これで生活していけるか心配になった」と話したことがある(もちろん、杞憂に終わったが…)。
また、10代で500万円、800万円の年収のある棋士は少なくないが、先のことはまったく分からない。勝てないだけでなく、怪我や病気でも、碁が打てなければ、収入はゼロになる。
とはいえ、サラリーマン生活を経験している筆者から見て、碁で自分自身を表現できる棋士という仕事は幸せそうに見える。
一生突き詰めても突き詰められない奥深い世界で模索を続け、研究することは一度踏み入れたらやめられない。実際、プロ棋士に話を聞くと、碁に負けることはつらいが、碁が打てないことのほうがもっとつらいそうだ。
菫初段も碁が好きでたまらず、他に興味があるものもないという。好きな道が見つかり、その道に進めたことが、彼女にとって一番の幸せなのだと思う。