国内

高齢ドライバーによる交通事故増加 免許返納だけが解決策か

70歳以上のドライバーのための「もみじマーク」

70歳以上のドライバーのための「もみじマーク」

 高齢ドライバーによる悲惨な交通事故が起きるたび、その数日後には、免許返納をした老人とその家族が「返してよかった」と語る様子が報じられる。定型となりつつあるこの流れが、徐々に社会的な同調圧力を強めているが、免許返納によって激変させられる生活をどのように組み立てるかの対策はないままだ。ライターの森鷹久氏が、免許返納をした結果、高齢者とその家族の負担を増やしている現状についてレポートする。

 * * *
「とても寂しいが、事故を起こす前に決意した」

 熊本市の熊本中央署が、免許を返納した高齢者に「感謝状」を送ったというニュース。免許を返納した85歳の男性がこう話すと、娘や警察官がにこやかに男性を取り囲み、記念撮影に応じる──。

 ほとんど“美談”のような報道を眺めながら、京都府在住の会社員・中西聡さん(仮名・40代)の表情は硬いままだ。

「高齢者ドライバーによる自動車事故が相次ぎ、このような流れになるのは自然だということは理解できます。ただ、これでうちの親は、世間様から余計に白い目で見られることになるかもしれない。止むを得ず運転しなければならないという層について、具体的な救済策が敷かれないままにこうした風潮になったことは残念です」(中西さん)

 東京・池袋で親子二人が死亡した事故など、高齢者ドライバーによる悲惨な交通事故が相次いでいる。「高齢者に係る交通事故防止」という特集が組まれた平成29年交通安全白書では、75歳以上の運転者による死亡事故件数と割合が算出されている。それによると、2006年の420件で7.4%から2016年には459件で13.5%と上昇、件数自体は10年間ほぼ横ばいで推移しているが、死亡事故件数全体が減少する中、全体に対する構成比は上昇傾向だと結論づけられている。その結果、高齢ドライバーが引き起こした事故が、この数年で実際に増加しているように我々が感じるようになっている。

 全体の交通事故件数が減っているのにも関わらず、高齢ドライバーによる事故が増えているのは、我が国の超高齢化と関係していることは言うまでもない。高齢者に運転をさせるな、免許を取り上げろといった過激な論調も目立つ中で、各省庁、自治体も独自の取り組みを行なっているが、中西さんは“無視されている”と思わずにはいられないという。

「実家である佐賀県山間部に住む両親(共に80代)にとって、車は必需品。週に一回の市街地への買い出し、週に二~三回の畑仕事に行く為には、どうしても車がいる。都市部では免許返納者にバスチケットを交付するなどされているようですが、佐賀の実家にはバスすらこない。福岡に住む兄弟と分担し、月に一度は帰省して買い物に連れて行くのですが、金銭的な負担もあるし、私がネット通販で生活必需品を送ってあげたりもする。昨今の報道を見た両親も車を運転することに抵抗を感じていて、以前ほど運転しなくなりましたが、自宅に閉じこもりがちになり、父親は足腰が一気に弱った」(中西さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン