国内

伊勢志摩を走る行商専用「鮮魚列車」 観光資源として再注目も

近鉄の鮮魚列車は現存する唯一の行商専用列車(時事通信フォト)

近鉄の鮮魚列車は現存する唯一の行商専用列車(時事通信フォト)

 従来の利用者には生活必需品で日常の風景であっても、渋谷のスクランブル交差点のように、地域の外からは珍しい観光地となることがある。かつては全国各地で運行されていたが、現在は近畿日本鉄道が運行する「鮮魚列車」を残すのみとなった行商専用列車が、その希少さから注目を集めている。観光資源としても注目を集めつつある「鮮魚列車」について、ライターの小川裕夫氏がレポートする。

 * * *
 いまやネットで注文して、手軽に玄関先で受け取れるようになった生鮮食品。今後も技術革新で、もっと便利になることは間違いない。

 一方、昔ながらの行商も細々と生き永らえている。鉄道が全国に敷設された大正期には、農村・漁村から都市部へと品物を売り歩く行商人がたくさん見られた。

 そうした行商人たちは一般の旅客列車ではなく、行商専用列車に乗って移動していた。行商専用列車は昭和30年代(1955年代半ばから1960年代はじめ)にピークを迎え、自動車の普及とともに下火になるものの、時代が平成に移っても運行は続けられていた。

 行商人の高齢化やトラックによる輸送や配達、卸売りによる流通経路の確立といった複数の理由もあって、列車を利用する行商人は減少。それとともに、行商専用列車は次々に廃止された。

 2013年、京成電鉄が野菜行商人たちの専用列車を廃止した。これにより、現在は近畿日本鉄道(近鉄)だけが行商専用列車を運行している。

 近鉄の行商専用列車は伊勢志摩魚行商組合連合会による貸し切り運行で、運搬されているのは鮮魚だ。そのため、鮮魚列車と称される。

 近鉄の鮮魚列車は、1963年に運行を開始。伊勢・志摩で水揚げされた鮮魚を、いち早く一大消費地である大阪へ届けるという役割を果たしてきた。お得意様は料亭や小料理店、産直を売りにする個人経営の魚屋が占める。行商による取引は、現金決済が主流。取引額は大きくなくても、個人事業主である漁業者にとって鮮魚列車で得られる現金は無視できない。

 トラック輸送が幅を利かせる現在でも、鮮魚列車は日曜・祝日を除いて毎日運行されている。6時09分に三重県伊勢市の宇治山田駅を出発し、8時57分に大阪府大阪市の大阪上本町駅に到着するというダイヤが組まれている。途中、何回も特急列車などに追い抜かれるため、トラックで輸送したほうが効率的かつ短時間のようにも思える。しかし、鮮魚列車には渋滞に巻き込まれずに時間が正確、大量輸送が可能といったメリットがある。そのため、頑なに鉄道による輸送が続けられている。

 鮮魚列車は鉄道ファンには知られていたが、乗車できないこともあって広く知られた存在ではなかった。また、関係者以外は乗車できないので、一度は乗ってみたいという願望を抱くファンは少なくなかった。

 今年3月、ファンの念願が叶うことになる。

「鮮魚列車のツアーを企画した背景には、私の原体験があります」と立案までの経緯を話すのは、鮮魚列車の乗車体験を組み込んだツアーを発売した旅行会社「クラブツーリズム」の大塚雅士さんだ。

関連記事

トピックス

ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン