内館牧子氏と坂東眞理子氏(撮影/藤岡雅樹)

坂東:公務員の頃は周りが“今日できることは今日のうちに”と勤勉な人ばかりで怠け者の自分はなんてダメなんだろう、出来が悪いなと滅入っていましたけれど、そこから徐々に考え方を変えて、今はそれでまぁいいんだと。他と比較することはやめて、自分なりの優先順位で心地よく生きていますね。

◆70歳。人生は最後、みんな横一列になる

内館:年齢を重ねたことで、坂東さんがおっしゃるように若い頃にはできなかった考え方をできるようになったことはたくさんありますね。本を通じてそれを下の世代の人たちに伝えたかった、というのは大きいかもしれません。

坂東:若い頃には視界が占領されてあんなに大問題だと思い煩っていたことが、全然大したことはなかったってことは本当に多い(笑い)。

内館:『終わった人』では定年で“終わった人”になった主人公が「俺は15の時になんであんなに頑張っていい学校へ行こうとしたのか」「なんであんなに必死でメガバンクへ就職しようとしたんだろうか」と人生を振り返る心境に共感したと、シニアの男性読者からたくさんお便りが届いたんです。でも中には感情移入できなかった、という男性もいらしてね。主人公は東大法学部からメガバンクへ就職して、あまりに自分と乖離しているというんです。

 でもそこが実は計算で、東大を出たエリートであろうが、非エリートであろうが、60、65になるとみんな横一列になる。高校に進学しなかった中学の同級生も大学に進学しなかった高校の同級生もクラス会で顔を揃えれば、みんなただのおじさんです。それまで学歴や職歴で格差があったにせよ、第一線を退いて社会的に“終わった人”になって肩書から離れれば、大差はない。そのメッセージを込めて、主人公はあえてエリートにしたんです。

《社会における全盛期は短い。一瞬だ。/あの十五歳からの努力や鍛錬は、社会でこんな最後を迎えるためのものだったのか。こんな終わり方をするなら、南部高校も東大法学部も一流メガバンクも、別に必要なかった。/人は将来を知り得ないから、努力ができる。/一流大学に行こうが、どんなコースを歩もうが、人間の行きつくところに大差はない。しょせん、「残る桜も散る桜」なのだ》(『終わった人』より)

坂東:日本の社会では学歴や就職先が一生の自分の価値だと錯覚してしまいがちですよね。エリートで恵まれていた人ほど、横一列を受け入れられない悲しさがあると思います。

内館:女性の容姿にしたって格差がなくなって、65を過ぎれば、みんな横一列でおばさんになる。あんなに美人だったクラスのマドンナが単なるデブのおばさんになっていて(笑い)、「何だ、今じゃあ、みんなと同じだ」なんてね。だけどそうやって65、70になればみんなが横一列で差がなくなるのだとわかって、若いうちから開き直って省エネで生きていくのはいちばんつまらない。

坂東:それは本当につまらないことですよ。どうせみんな横一列で同じになるんだから別に努力する必要はないわ、気張らずナチュラルに生きていいんだわ、という考えは捨てるべきです。その逆で人生のその場その場で自分がやるべきことに全力投球することが、いくつになっても大事だと思うんです。人生はいつだって、今日という日がいちばん若いんですから。その心意気で全力投球してきた積み重ねがあることで「私もよくやってきた」と自分をいたわることができますし、そこから先の人生を生きる活力にもなりますから。

※女性セブン2019年6月6日号

 

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