ライフ

地元書店員が驚いた『トラとミケ』、名古屋めしへの本気と愛

話題沸騰中の漫画『トラとミケ いとしい日々』

 単行本が発売するやたちまち話題沸騰中の漫画『トラとミケ いとしい日々』。動物写真家の岩合光昭さんが初監督を務めた映画『ねことじいちゃん』の作者、ねこまきさんが名古屋を舞台に描いた「猫だらけ」の最新シリーズだ。過日、『孤独のグルメ』原作者の久住昌之さんが「ほんまにおもろい」「猫になって、この町に住みたい」と大絶賛したこの作品を、日々たくさんの本に接している書店員さんはどう読んだのか。愛知県に本社のある地元の書店・精文館書店の川田智美さんのスペシャル書評。

 * * *
 ぷくぷくした丸顔、味わいのある表情、ぽってりした腰回り。ねこまきさんの猫には、1匹1匹に、その子だけの愛らしさが詰まっている。映画化された『ねことじいちゃん』や、アニメ化された『まめねこ』をきっかけに、メロメロになった方も多いだろう。このたびの新刊『トラとミケ』は、これまでの作品とは一味違った、でもねこまきさんらしい、人情(猫情?)味あふれる物語だ。

 主人公は、亡き両親の跡を継いで「どて煮屋」を営む、トラさん・ミケさん姉妹。毎日様々な常連さんがやってきては、美味しい料理やお酒、そして名古屋弁全開の賑やかな会話を楽しんでいる。

 まず惹かれたのが、彼らが繰り広げる思い出話。初めての海水浴や、家族総出の年越し準備などのエピソード、さらにはかき氷棒や練り飴といった懐かしいおやつの登場につられて、自分の子どもの頃のことがよみがえってくる。

 長らく忘れていた出来事も、五感や感情まで思い出せるのには驚いた。子どもや孫たちと一緒にこの本を読んでみたら、自分にとっての「懐かしい」ものと、誰かにとっての「新しい」ものがつながっていくかもしれない、などと想像すると、ハッピーな気持ちになる。「懐かしい」と感じる対象は、世代によって違うだろうけれど、「懐かしい」という気持ちはきっと同じだ。

 そんな楽しい思い出の一方で、トラさんの叶わなかった恋の話や、常連客で編集者の上田さんの家族の話には、胸を打たれた。「長く生きてるといろいろあるねえ」というモノローグに、深く頷く。ほんとうに、そうだよねえ。生きていれば、悲しいことも、愉快でないことも、色々ある。年を重ねて、うまくやりすごせるようになってきたと思うと、反動のように落ち込む日もあったりして。

 そんな日常をごまかすことなく、しかも軽やかに、楽しく読ませてくれるのは、ねこまきさんのかわいい猫キャラクターと、独特のテンポのおかげだ。まるで、昭和の名作映画のような余韻を味わったが、これってすごいことなんじゃないかと思う。

関連キーワード

関連記事

トピックス

あとは「ワールドシリーズMVP」(写真/EPA=時事)
大谷翔平、残された唯一の勲章「WシリーズMVP」に立ちはだかるブルージェイズの主砲ゲレーロJr. シュナイダー監督の「申告敬遠」も“意外な難敵”に
週刊ポスト
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左/バトル・ニュース提供、右/時事通信フォト)
《激しい損傷》「50メートルくらい遺体を引きずって……」岩手県北上市・温泉旅館の従業員がクマ被害で死亡、猟友会が語る“緊迫の現場”
NEWSポストセブン
財務官僚出身の積極財政派として知られる片山さつき氏(時事通信フォト)
《増税派のラスボスを外し…》積極財政を掲げる高市早苗首相が財務省へ放った「三本の矢」 財務大臣として送り込まれた片山さつき氏は“刺客”
週刊ポスト
WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン
ツキノワグマは「人間を恐がる」と言われてきたが……(写真提供/イメージマート)
《全国で被害多発》”臆病だった”ツキノワグマが変わった 出没する地域の住民「こっちを食いたそうにみてたな、獲物って目で見んだ」
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《ビザ取り消し騒動も》イギリス出身の金髪美女インフルエンサー(26)が次に狙うオーストラリアでの“最もクレイジーな乱倫パーティー”
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 維新まで取り込む財務省の巧妙な「高市潰し」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 維新まで取り込む財務省の巧妙な「高市潰し」ほか
NEWSポストセブン