今回の小説では、私が栃木に住んでいたこともあり、場所をざっくり「北関東」としています。転勤族で、「社宅の子」と呼ばれてたから本当の土着性はわかっていないかもしれません。でも、そこから逃げられないことに甘んじるんだったらまだしも、ひとたび「ここではないんじゃないか」「これは違うのでは?」と思い始めたら、ものすごく苦しいのは痛いほどわかりますよね。逃げたくても金銭的な問題や、教育の問題もある。今は、SNSなど外に出るツールがたくさんあるけれど、その分、かえって生まれ育った場所から自由になれないところがあるんじゃないでしょうか。
〈母の琴音が姿を消してから、蓮音は誰かにすがるという行為を自分に禁じたのだった。あらかじめ頼ろうとしなければ、断られて傷付くこともない。呪文を唱えて必死になった。がんばるもん、私、がんばるもん。〉
──あの事件では、実際の母親については早くに家を出たという以外、詳しい情報は出ていません。『つみびと』では母親が家を出た理由として、父に殴られ、養父にレイプされた過去が明かされます。母と娘の不幸の根っこにあるのは、多くの事件のそれと同様の暴力でした。
山田:参考文献からエッセンスはもらっていますが、琴音に起こったことは全部、私の創作です。それまでの出来事やいろんな人から聞いてきたことを膨らませたり掘り下げたりしていますね。『女性セブン』の連載でもおわかりのように、私はワイドショーが好きだし、新聞は読者欄から読むし。そうしたことの中に小説に向かわせるリアルがあるんです。そこに誠実でありたい。
先日対談した精神科医の春日武彦さんは、結婚した琴音の精神状態がおかしくなっていくところはすごく丁寧に書かれていて感心したと言ってくださいました。琴音は過去からなんとかサバイブしようと、一応まっとうな男と結婚し子供も生まれたのに、家出を繰り返してしまう。トラウマになっていることって繰り返し繰り返し引き受けてしまうんです。
インタビュー・構成/島崎今日子、撮影/五十嵐美弥
※女性セブン2019年7月4日号