様式の整った日本美を敏感に感じていたのはフランスの知識人であって、当の日本人はそのセンスを欠いていたようだ。古いものを「古い」という理由だけで惜しげもなく壊していく。「もしかしたら、日本が自分たちを見直すときが、いつの日か訪れるのではなかろうか」。はやくも新旧ごったまぜの醜悪な巨大都市TOKYOが予言されている。
神社の鳥居を凱旋門と早トチリしたりするが、ギメはあふれるような好奇心と美的センスで、日本人の気づかないものを見てとり、よろこびとともに書きとめた。この時点ですでに絵師・河鍋暁斎を高く評価している。わざわざ住居を訪ねている。二間きり「六メートル四方」の小さな家。天才的風刺画家の「掘立小屋」を見つけ出すのに苦労した。おだやかな散策のようだが、随所にシンラツな批評がまじっている。
※週刊ポスト2019年7月12日号