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JRに君臨した革マル派最高幹部の「亡霊」

JRのタブーに切り込んだ『暴君』著者の牧久氏

 松崎の「コペ転」は本当なのか、偽装なのか。当時の革マル派の機関紙を当たりましたが、民営化賛成に方針転換するといったことは一切書かれていません。むしろ「我々は新たな闘争を開始する」といった趣旨で、新たなJRでどのような組合運動を進めていくかに焦点を合わせたような論調が展開されていたのです。実際、松崎はJR東労組を拠点にJR総連に息のかかった人材を送り込んで「絶対権力者」としての地位を確立し、会社の経営権にまで深く介入していくのです。

 JR東日本の初代社長に就任したのは、元運輸省(現国土交通省)事務次官の住田正二。住田をJRの最大会社・東日本に起用したのは中曽根と言われています。住田の妻は山種証券の創業者・山崎種二の娘で、山崎は中曽根の有力な後援者でした。労組と対峙した経験のない住田は、JR東の経営に失敗して中曽根の顔に泥を塗るわけにはいかないとの思いから、松崎の牛耳る組合と協力していこうと思ったのかもしれません。

◆キヨスクから消えた週刊文春

 一方、常務取締役には改革3人組の一人である松田昌士が就任します。北海道出身の松田は、民営化後はJR北海道を希望していた。しかし、大方の予想に反して井手、葛西はそれぞれJR西日本副社長、JR東海取締役となり、松田が東京に残ることになる。松田は運輸省出向時代に住田に仕えた時期があり、住田も東大卒でヤリ手の井手、葛西よりは松田の方が扱いやすかったのでしょう。

 住田―松田体制で出発したJR東の経営陣は、JR東労組の委員長である松崎と手を握ります。松崎は「労使協調」を否定し、あらゆる面で労使は対等だという「労使対等」(労使ニアリー・イコール論)を主張。労使協議制を作って、そこを通さなければ何ひとつ決められない体制を築いた。

 しかし、労働条件だけでなく、幹部人事や設備投資などの会社運営に関しても対等になるということは、経営陣が経営権を放棄したことに等しい。日本の労使関係では異常事態です。そのことを住田、松田はどれだけ自覚していたのか疑問です。

 以後、「労使対等」路線を批判した人は次々と閑職に追いやられ、松崎と手を組んだJR東の経営側がそうした左遷人事を行います。極め付けは1994年に起きた『週刊文春』事件。ルポライター・小林峻一が書いた連載記事「JR東日本に巣くう妖怪」を巡り、JR東の駅構内のキヨスクから週刊文春が一斉に消えるという前代未聞の言論弾圧事件です。キヨスクから雑誌を全て排除するという判断を会社が行ったのです。

 私は今回の取材で、なぜ松崎と手を握ったのか、松田にきちんと聞かなければと思いました。当時、多くの関係者は「松田は革マル派に脅された」と見ていました。後年、日本経済新聞の「私の履歴書」で松田は、孫がプールで何者かに無理やり顔を水に押し付けられた、と書いていますが、それは民営化以前の話。その後、孫が誘拐されたとの怪情報が流布されたこともありましたが、結局、確認は取れていません。

 松田が私の取材に語ったのは、脅された事実はないということ。その上で松田は、革マル疑惑について松崎に単刀直入に問いただしたところ、松崎は「自分は今でも革マル派である」と認め、「そのことで住田社長や松田さんに一切迷惑はかけない」と誓ったと明かしました。松田は「自らの意思で松崎と一緒の船に乗り込んだ」と明言したのです。

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