感情の起伏を身体で表現することがリアクション芸人の仕事だ。喜怒哀楽を揺さぶるゲームと相性が良いのは必然である。しかし、田中が他のYouTuberと比べて段違いのゲーム実況をしているかといえば、怪しい。名誉のために書くが田中に落ち度は一切ない。ただ、現在のYouTuberたちのトーク技術が底上げされているのだ。
全ての表現は模倣から始まる。おそらく、YouTuberはテレビで見た芸人のリアクションを学んだ。得た技術は自身のゲーム実況に生かされる。田中の「もう、なんで?」といった泣き声リアクション、実はとっくに流用されている。ゆえに本物がやった際、新鮮味が若干薄れてしまう。田中のリアクション芸が進化するほどに模倣者も育ってしまう。ゲーム実況を通して、なんとも皮肉な構図も浮かび上がってきた。しかし、二番茶よりも一番茶が豊穣であることに疑いはない。
普段、温厚な人が車の運転中だけ激しい性格となる。そして人は、運転と同じくゲームの操作をする際、本性が漏れる構造となっているようだ。ゲーム中、覗く田中の本性こそ『卓志ぃぃeeeee!』の醍醐味。
プロゲーマー・板橋ザンギエフと『ストリートファイターV』で対戦した田中。通常ルールでやっても勝てるはずがない。協議の結果、「板橋は対戦スタート時から5秒間は無抵抗」といったハンデマッチ戦が組まれた。5秒間、田中は板橋をボコボコに殴る。その後、反撃されるものの1ラウンドをギリギリで先取する。2ラウンド、無抵抗なキャラクターを再び痛みつける田中。そして、奇跡が起った。殴った勢いそののま、必殺技が炸裂。プロ相手に無傷で勝利を飾る。諸手をあげ「やった~」と喜び勇む田中に「有利な形勢を取ると強いタイプですね、田中さんは……」とボヤく板橋。ハンデをもらっているのに勝って図に乗る田中は、板橋のぼやきを聞き逃さず「俺をダメ人間みたいに言うんじゃないよ!」と激しくツッコミ。顔を出さない人も多い実況系YouTuberとは異なり、パーソナルを知られている田中らしい面白さが表出しているシーンだった。
本編、スピンオフを観て、コミュニケーションツールとしてのゲームっていいな、と再確認。自分はプレイせずともゲームを楽しむ人を通し、追体験できるのがゲーム実況の魅力。僕は田中がプレイしたゲームを一切やったこともない。しかし、彼のプレイ映像を満喫できる。ゲーム実況はプレイヤーと非プレイヤーを繋ぐ。これもひとつの交流である。
水野晴郎ではないが「いやぁ、ゲームって本当にいいもんですね~」と言い、このコラムをゲームオーバーしたい。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)