荒木:雲や空を見て天気を予想することを「観天望気」といい、天気予報の技術のない大昔から経験的に培われてきました。作中で陽菜ちゃんがいた、かなとこ雲などを見て、天気の変化を読み取ることは可能です。
新海:ただ観天望気のスペシャル版とでもいうのか、人間でも肌で気圧の変化を感じられるかたがいるじゃないですか。古傷がうずくとか、特殊で鋭敏な感覚を持っていることで、正確に晴れや雨を予想することはできませんか?
荒木:天気図で見る大きな気圧と生活の中で感じる気圧は結構違うんです。ビルの下から上に行くだけで気圧は大きく変わりますしね。だから体感の気圧の変化だけで、天気を予想することは難しいんです。
新海:そうですか…。
荒木:昔から〈山に笠雲がかかれば雨〉〈太陽の周りに光の輪がかかれば雨〉など、天気の変化を知るための言い伝えが数多くありますよね。なかでも雲が関連するものは、雲が大気の状態を表すだけに、科学的な根拠が充分にあるものが多いといえます。
特に今の技術ではまだ積乱雲の予測が正確にできないことがあるので、雲を見て天気の変化を予想する観天望気の技術は、現代でも有効なんです。
【プロフィール】
◆新海誠(しんかい・まこと)/1973年2月9日生まれ、46才。長野県出身。2002年、監督・脚本・美術・編集などの制作作業をほぼ1人で行った短編アニメーション『ほしのこえ』で鮮烈なデビューを果たし、数々の賞を受賞した。その後もきめ細やかな映像美とセンチメンタルな脚本で観客の心を打つオリジナル作品を次々と発表。2016年に公開された『君の名は。』は記録的な大ヒットとなり、『千と千尋の神隠し』(2001年)に次ぐ邦画歴代2位の興行収入を記録した。
◆荒木健太郎(あらき・けんたろう)/1984年11月30日生まれ、34才。茨城県出身。雲研究者。気象庁気象研究所研究官。学術博士。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職。防災・減災に貢献することを目指して、豪雨・豪雪・竜巻などの激しい大気現象をもたらす雲の仕組み、雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)などがある。
撮影/田中智久
※女性セブン2019年8月8日号