◆どちらにも必要なのは隠し撮りのテクニック!?
ある日、小原さんはカナダへ向かいます。かつて海外の空港でたまたま手にしたポストカードで見たアザラシの赤ちゃんの本物をひと目見たい、という思いだけで。商売になるかどうかは度外視、ただただ、いやしだけを求めた旅でした。そして、人間を母親と間違えて、「アゥー、アゥー」と泣きながらおっぱいをねだる姿に、一瞬で心を奪われます。気づいたら、一心不乱にシャッターを切り続けていました。
それから定期的に北米への撮影旅行へ。ならば「ついでに」大草原に生息する動物も撮ってみようか、と思ったのがプレーリードッグとの出会い。さらに人魚のモデルともいわれるマナティ、シロクマとどんどん動物撮影にハマっていったのです。
スクープを追うカメラマンから動物写真家へ。その転身は、「前進したり後戻りしたりのくり返しでスムーズとは言い難いけど」まわりが驚くほど意外なことではないとご本人は言います。「機材をほとんど変える必要がなかったんです。どちらにも必要なのは“隠し撮り”のテクニック。とくにシマエナガの撮影では、芸能人を張り込み隠し撮りしたときのノウハウが役立っています。こんなの、他の動物写真家センセイはふつうやりませんね(笑)」と、まさに“現場100回”の経験が生きたわけです。
「もともと報道志望で、動物カメラマンをめざしていたわけではありません。それでも、ぼくの写真を通じて、可愛らしい被写体の魅力が伝わることが、とにかく嬉しい。動物を撮影するときはそれぞれの生態について入念に調べますが、見る人に伝えたいのは、学術書に書かれている情報ではなく、出会った喜び。誰かに〈伝える〉という強い気持ちは被写体こそ変われど、写真週刊誌時代と何ら変わりはないように思っています」(小原さん)