「ゆうこす」はアイドル活動をやめた後、インスタグラムを開始して、「モテたい女の子」から共感を得るSNSを展開。自身のアイドル時代の失敗なども共感につなげ、現在のフォロワー数は100万人を超え、著書『共感SNS』も話題になっている。現在は会社を立ち上げ、インフルエンサーとしての発信だけでなく、スキンケアブランドの展開、タレント育成や飲食店経営などにも挑戦し、それらビジネスの年商は2億円に達している。
それに対して「レンタルなんもしない人」は国立大学の理系の大学院を卒業後、就職したものの「働くことが向いてない」ことに気づき、一人で入りにくい店、ゲームの人数あわせ、花見の場所取りなど、「なんもしない人」として誰かの役に立つサービスを始めた。交通費とかかった飲食代の実費だけで報酬は受け取らないやり方が評判を呼び、連日、多様な依頼が舞い込んでいる。著書『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』も出版され、テレビにも出演する有名人になった。
「一見、まったくちがうことをやっている2人に共通するのは『評判社会』の新しいスタイルを生み出そうとしていることです。『ゆうこす』はモテクリエイターという新たな肩書きをつくり、『レンタルなんもしない人』は文字通り、なにもしないことで評判を獲得している。どちらも、SNSという新しいプラットフォームを活用しながら、これまで誰もやってこなかった市場を開拓しようとする『ニッチ戦略』です。
興味深いのは、元アイドルの女の子(失礼)がMBA(経営学修士)顔負けの論理で評判=共感をいかにビジネスにつなげていくのかを語るのに対して、国立大大学院卒業のエリートの男性がビジネスから撤退していくことでしょう。これもまたいまの時代を象徴していると思います」
「評判強者」となっている彼ら/彼女らの共通項について、橘氏は次のように分析する。
「世の中が複雑になり、価値観も多様化するなかで、既存のマスメディアでマス(大衆)に広く訴えかけても効果は望めない。それよりもわずかなニッチに見つけて、世の中の隙間にあるニーズを掘り起こし、SNSを『自分メディア』にして評判や共感を獲得する。そんな無数の『インフルエンサー』が誕生することで社会は小さなトライブ(部族)に分かれ、断片化していくのでしょう。その大きな潮流を、2人とも最先端でとらえていると思います」
◆橘玲(たちばな・あきら):1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。近著に『上級国民/下級国民』(小学館新書)、『事実vs本能 目を背けたいファクトにも理由がある』(集英社)など。