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働き方改革、キリンは親や介護者の気持ちを体験する研修を導入

「なりキリンママ・パパ」を発案した営業担当の女性たち。実際に出産し、営業現場に復帰できた人も

 総務省の調査では、今年6月の女性の就業者は3000万人を突破した(※総務省が7月30日に発表した2019年6月の労働力調査)。働き方改革関連法にも女性の活躍を推進させる内容が盛り込まれているため、今後ますます第一線で働く女性は増えるはずだ。

 その一方で女性には育児や介護の負担もある。子供の発熱などで早退する女性社員への風当たりが強い職場は多く、働く機会をもらっても働きづらいというのが現状だ。

 そんななか、斬新な研修を導入した会社がある。それがキリンホールディングスだ。

◆母親や介護者の苦労を社員で体験・共有する

「当社の営業担当には、仕事と家庭を両立している女性が少ない状況でした。そんななか、営業担当の女性5人が、母親になっても働けるかどうかシミュレートしてみようと、『なりキリンママ・パパ』研修を発案したのです」(キリンホールディングス人事総務部)

 この研修は1か月間、小さな子供がいる親や介護者など、時間に制約のある立場で働いてもらうというもので、全事業所での展開を進めている。

 どんなに忙しくても定時には帰らないとならず、どうしても緊急で残業をしないとならない場合は、ベビーシッターに子供を預けるという設定で、ベビーシッター代を支払う仮想体験をする。

 さらに、月に1~2回、「子供が発熱したので至急帰ってきてください」という連絡が突然入る。この電話を受けたらどんなに仕事が忙しくてもすぐに帰宅、もしくは翌日に看病の名目で会社を休まなければならない。男性営業担当として最初にこの研修を試したキリンビール営業部の宮内友久さんがその体験を振り返る。

「周りが忙しく働く中、自分だけ定時で帰ることの肩身の狭さ、仕事が終わらないことのもどかしさなど、予想外の苦労の連続でした」(宮内さん・以下同)

 宮内さんはこの後、育児休業を取り、子育てに積極的に参加するようになったという。さらにこの研修は、宮内さんだけでなく、部署の雰囲気も変えた。働く時間に制約のある社員がいることで、“お互い様精神”が芽生え、フォローし合える環境になったのだ。

「今では、介護や家族の病気といった個人的な事情も部内で共有し、いざという時に助け合えるような仕事の進め方ができるようになりました」

 育児や介護をしながら働く大変さは体験しないとわからない。荒療治のようだが、今の時代に必要な研修といえる。

【こんな制度・施策を導入しました】
●「なりキリンママ・パパ」研修
●働く“場所”の自由度を上げるため、在宅勤務制度を拡充(1時間単位で月8回まで利用可。自宅以外もOK)
●働く“時間”の自由度を上げるため、全事業所でフレックスコアタイムを廃止
●22時一斉消灯(グループ本社のみ)
●終業後から次の始業までは11時間休む「勤務間インターバル」を導入 など

※女性セブン2019年8月22・29日号

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