5段階目の「危険」レベルでは、子供の場合は特に運動を中止すべきとされており、指数の予測によっては、学校での体育の授業を中止したり、夏休みの屋外プールの開放を中止するところもある。これまで曖昧だった暑さへの危険度が、この指数によって危険となる“ライン”が線引きされたのだ。このラインを一つの基準に、一日に幾度となく暑さが話題になり、メディアは最高気温が上がる度に注意喚起する。指数レベルが「危険」になれば、「原則運動中止」が頭に中に刷り込まれていく。
日々何度も聞いていると、こうした決められたラインが暑さ対策へのスタンダードになってくる。すると人は、そのラインから外れたものに矛盾や違和感を感じるようになる。学校では体育を中止するほど危険なこの時期に、「なぜわざわざ東京五輪を開催しなければならないのか」「開催して大丈夫なのか」「政府も東京都も組織委員会もおかしいのではないか」と。
ところがこの指数は、「危険」レベルになっても「特別の場合以外は運動を中止する」とも書かれている。“特別の場合”なら、運動は中止されない。東京五輪は特別の場合に当てはまる“例外”であり、まるで「ダブルスタンダード(二重基準)」なのだ。メディアは一般市民に運動を中止するよう呼び掛けているのに、選手たちはこの暑さの中で競わねばならず、頑張れ!負けるな!と応援される。。
東京五輪に出場する海外の多くのチームや選手たちは、この暑さを知らない。日本に住んでいる私たちでさえ堪える暑さに、選手たちは、チームはどう対処するのか。せっかくの東京五輪だからこそ、ダブルスタンダードのない、競いやすい環境での開催を望むばかりだ。
競技によっては開始時間を早めたり、施設の遮熱を高めたり、座席に空調を設置したりと対策は進められているが、マラソンコースの遮熱性塗装では、路面温度は低いが一定の高さになると暑さ指数が逆に高くなるという研究結果が出ているという。東京五輪の組織委員会が考案し実施する熱中症対策だけで、果たして足りるのだろうか。来年の夏が涼しいことを願うだけだ。