アメリカのドナルド・トランプ大統領には、驚かされてばかりだ。とくに日本にとっては予想もしない要求を突然、突きつけられることがたびたびあり、脈絡のなさに面食らうのである。経営コンサルタントの大前研一氏が「トランプ小劇場」の行く末を考察する。
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アメリカのトランプ政権が、在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算/2016~2020年度で9465億円)を現在の5倍に増額するよう日本政府に要求した、と朝日新聞(7月31日付夕刊)が報じた(菅義偉官房長官は否定)。そのほかにもトランプ政権は、中東のホルムズ海峡などを航行する船舶の安全を確保するための「有志連合」構想に日本の参加を求めたり、日米貿易協定交渉で日本車の対米輸出の数量制限をちらつかせつつ農産物の関税撤廃・削減を求めるなど、日本に対する圧力を強めている。
さらにトランプ大統領は日米安全保障条約を「不公平だ」「変える必要がある」と批判した。アメリカには日本が攻撃を受けたら戦って守る義務があるのに日本に同じ義務がないのはおかしい(片務的)という主張である。また、日米貿易協定交渉に関してはツイッターで「(7月の参議院選挙後)大きな進展が予想される」「8月に日米両国にとって非常に良い発表ができると思う」などと書き込んでいる。
だが、こうした対日発言の狙いは見え透いている。
まず、安保条約への批判については呆れるばかりだ。なぜ、そのようになったのか、トランプ大統領は安保条約が締結された第2次世界大戦後の歴史的な経緯を全く理解していないし、そもそも東アジアにおけるアメリカの軍事戦略の要である安保条約の破棄や見直しを本気で考えているわけがない。トランプ大統領は日本を「ウォリアー(武士)の国」と呼んでいるが、それはすなわち「武士の国なら、もっとアメリカの武器を買え」ということであり、同時に安保条約を盾に脅しをかけて日本から貿易協定交渉で大幅な譲歩を引き出そうとしているのだ。
つまり、トランプ大統領の判断基準はすべて「お金」なのである。アメリカにお金を払ってくれるのは良い人、お金を払わせるのは悪い人、という単純な図式だ。そして今は来年11月の大統領選挙しか頭にないから、自分に都合が良くて選挙でプラスになるかどうかだけを考え、前後の脈絡もない独善的な外交を展開しているのだ。