左から嶋さん、山田さん、中川さん
中川:山田さんは『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』(幻冬舎・2013年)という長編で、どんなにいろいろな人が死のうが、私にとって大事な人が死ななければいい、という内容を書いてますよね。僕はあの言葉はビートたけしが東日本大震災について語っていたことと近いなと思っていて。
山田:そうなんですか?
中川:はい。あの時にたけしさんは、「2万人が死んだ事件が1つ起きたのではない。1人が亡くなった事件が2万件起きたんだ」と言ったんです。遺族はみんな自分のいちばん大事な人のことしか考えられない。
山田:たけしさんに先を越されていたか。
中川:同じことですよね。でもやっぱり本当のことってそうでしょう。命ってそういうことだと僕は思いますね。
山田:誰かにとってのかけがえのない1人が死ぬことと、大災害で千人が死ぬことは、ある意味では何も変わらない。千の死には千の悲しみがあって、その内訳をしつこく追い求めていくのが作家のすべきこと。
日本の社会は血縁を重視したがりますけど、私は血の繋がりより、どんなふうに濃密な時間を共有してきたかの方に価値があると思う。人の生き死にを左右するのは、明らかにそっちだと思うんですよね。幸も不幸も外から見て本当のところはわからない。これからもそういう立場で小説を書いていきたいと思っています。
【プロフィール】
◆山田詠美/やまだ・えいみ。1959年東京都生まれ。作家。1985年「ベッドタイムアイズ」で文藝賞を受賞し作家デビュー。1987年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞したほか、数々の文学賞を受賞。最新作は『つみびと』。
◆中川淳一郎/なかがわ・じゅんいちろう。1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務に携わる(2001年退社)。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。
◆嶋浩一郎/しま・こういちろう。1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。企業のPR業務に携わる。2001年朝日新聞社に出向し「SEVEN」編集ディレクターに。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。2006年「博報堂ケトル」を設立。2012年「本屋B&B」を開業。
撮影/政川慎治
※女性セブン2019年9月12日号