「娘が倒れたって、日本郵政スタッフの方から電話があったのが午前10時半ごろでした。とりあえず、バスとタクシーを乗り継いで、娘が搬送された小田原市立病院まで行ったんです。到着したのは12時前でしたね。治療室に行ったら、もうダメだ、って先生に言われました。間に合わなかったんですね。日本郵政スタッフの人からは、職場で倒れたので、応急措置をして、急いで救急車を呼んだ、という説明を受けました」
見せてもらった死亡届には、「発病(発症)又は受傷から死亡までの期間 約3時間」と記載してあった。亡くなる3時間前にくも膜下出血を発症したということなら、9時前後に内田は倒れたことになる。
死亡届を見ながら、私が取材で聞いた話を伝えた。9時過ぎに内田が倒れてから、複数の人間が物流センター内で電話をして、救急車が来るまでに1時間前後かかっていることなどを。
「そんな話は聞いてないねぇ……」
アマゾンからの連絡は一切なく、日本郵政スタッフの担当者が、9月分と、10月分の給与を持ってくるからという連絡があるだけなのだという。そのほかに受け取ったのは、香典の3万円だけだった。
「娘が亡くなってから毎週1回は、お寺に行って、花を供えているんですよ。もうすぐ四十九日が来ます」と言って薄く微笑んだ。アマゾンを恨むでもなく、娘の死に悲嘆にくれるわけでもなく、その淡々とした口調が印象に残った。
●よこた・ますお/1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。1999年よりフリーランスとして活躍。主な著書に、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』『仁義なき宅配』『ユニクロ潜入一年』など。新刊『潜入ルポ amazon帝国』は9月18日ごろ発売予定。
※週刊ポスト2019年9月13日号