“オタクであること”自体が武器になれば、たとえ激務であっても心折れることなく働ける。さらに、一見オタクとはなんの関係もない業界でも、こうした“オタク力”を生かして活躍している人がいるという。

「取材した戦略コンサルの方いわく、コンサル業界で必要な“仮説思考”と“ロジカルシンキング”の技術は『漫画とアニメを繰り返し見て、伏線やキャラクターの関係性を考察して妄想を広げる』という、オタク特有の楽しみ方に近いそうです。

 特に腐女子(男性同士の恋愛を妄想して楽しむオタクの女性たち)の人たちは、男性キャラクター同士の“男の友情”や“ライバル心”などが描かれているシーンを深読みして、『この二人、もしかしてお互いのことが好きなんじゃ…』と妄想して、その見解をSNSなどで“論文”のように語る人が多い。少ない事実から仮説を立てて、それを裏付ける事実をさらに拾って、また仮説を立てて…というプロセスは、仕事にも応用できるようです」

 しかし、いくらうまくオタク力を生かすことができても、会社での仕事の多くは、本来チーム一丸となって行うものが多い。独りよがりの“個人プレー”や、自分勝手な有給申請で周囲に迷惑をかけてしまっては、せっかくのオタク力も台無しだ。彼女たちのコミュニケーション能力についてはどうだろうか。

「オタクといえば“部屋に引きこもって一人でアニメや漫画を見ていて、コミュニケーション能力に乏しい”というイメージを持つ人もいますが、それは昔の話。今のオタクはイベントや観劇といった“現場”が多いですから、高いコミュニケーション能力がないと活動していけないんです。

 例えば、日時が合わないなどの理由で舞台のチケットを交換したければ、SNSで見知らぬ人とメッセージをやり取りしないといけないし、同人誌の表紙を描いてほしい人がいれば、その人に自分が想定するイメージや色味を正確に言葉で伝えないといけません。SNSでは『自分の考えをわかりやすく、面白く伝える力』があった方が、オタク仲間を作りやすいこともあるでしょう」

 人気作品の名台詞をもじったり、思わず笑ってしまったりするような言い回しで愛するキャラクターやアイドルへの思いを熱く語る「言葉選びのセンス」も、オタク同士の円滑なコミュニケーションにおいて求められる“教養”のひとつだ。

「ほかにも、推しのグッズを交換したければ、“Aくんのグッズが欲しいけど、Aくんは今一番人気だから、Bくんのグッズ3つと交換してくれる人を探そう”など、市場の動向を読み取る力も必要です。アンソロジー(複数人が同じテーマで絵や漫画、小説を持ち寄って作る同人誌)を企画したら、参加者全員の執筆スケジュール管理や予算管理など、多くの職場で必要とされる進行管理能力がある人でなければ、なにかしらのトラブルが起こります」

◇オタ活時間を確保するため職場では“愛され社員”でいる

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