国際情報

破産の旅行代理店トーマス・クック 初企画は禁酒旅行だった

世界で60万人の旅行者が足止めされた(ゲッティイメージズ)

 9月23日、旅行代理店の元祖として知られる英トーマス・クック・グループが破産申請した。翌24日にはグループ傘下の航空会社も含めて営業を停止したため、同社のツアー利用者60万人が国内外で足止め状態に。創業180年で暖簾を下ろすことになった老舗の歴史について、歴史作家の島崎晋氏が解説する。

 * * *
 英国の老舗旅行代理店トーマス・クック破産のニュースを聞いて、感慨を覚えた中高年の方々は多いに違いない。海外旅行に日本円をたくさん持っていくのは危険。盗難に遭っても実害がなくて済むトラベラーズ・チェックが無難というので、ひと昔前までは日本円をトーマス・クック発行のそれに変えて海外へ出かけるのが一般的だったからだ。

 トーマス・クックは現在に続く旅行代理店の元祖でもあるのだが、その創業には旅行とは直接関係のない「禁酒運動」が関係していた。

 英国でアルコールといえばビールやウイスキーが頭に浮かぶが、18世紀にオランダからジンがもたらされてからというもの、「安くて強い」ジンに人気が殺到。過度の飲酒でアルコール中毒に陥る者が続出し、深刻な社会問題にまでなった。

 このような社会状況に敢然と立ちあがったのがプロテスタントの一派であるバプテスト派の伝道師トーマス・クックである。熱心な禁酒運動家でもあった彼はたびたび禁酒大会を催していたが、交通の便を考えると開催場所や大会の規模が限られる。そこで閃いたのが、1830年に旅客輸送を始めたばかりの列車を利用する手段だった。

 クックが1841年の会場に選んだのはイングランド中部の町レスター近郊のラフバラーで、そこはレスターから11マイル(約18キロ)ほど離れていた。列車の通常運賃は高くて庶民にとっては高嶺の花。そこでクックは鉄道会社と交渉して、貸し切りの臨時列車を出してもらう約束を取り付ける。これであれば一人あたりの運賃を格安に抑えることが可能であった。

 かくして組まれた世界初のパッケージツアーは、往復の列車代と昼食代を含めても1シリング。ポンドの下の単位である。庶民でも出せる価格設定に抑えられた結果、約500人の参加者が格安料金で世界初の日帰りツアーを楽しみ、大会は大成功を収めた。

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン