「この女の子は薄目を開けて男が誘ってくるのを待っているな。エロスだよ、わはは」と、沈黙を破ったのは母の隣の老紳士だ。クラスに必ずこういう子がいたなと思わせる、無邪気が魅力的なおじいさん。
「あら! そうかしら」と、母が突然、声を上げた。
「この表情は違うわね。女は男に興味なし! きっとそれで寝たふりをしているのよ」
声には張りがあり、母らしい鋭い洞察が光っていた。
「あ! いつものママだ!」
うれしくて、思わず心の中で叫んだ。
まるで分厚い殻をエロスじいさんが割って、中から母を救い出してくれたよう…。そんな愉快な絵が私の脳裏に浮かんだのも、美術館の空気ゆえだったのかもしれない。
※女性セブン2019年10月24日号