国内

浸水経験者 「坂の上の住人が見物に来るのが悔しくて」

台風19号の影響で浸水した住宅街(川崎市。写真:時事通信フォト)

『女性セブン』での体当たり企画でおなじみの“オバ記者”ことライター・野原広子(62才)が、世の中の気になることに対して、自由な意見を発信。今回のテーマは、災害です。

 * * *
 台風19号の被害の大きさが明らかになりつつある中、さらに台風20号、21号が太平洋上で発生して、日本列島を震え上がらせた。

 正直な話、報道を見るのもつらい私は、日に1~2度、確認程度にニュースを見ているけど、ワイドショーからは目を逸らしっ放しだ。

 これからどうなってしまうのか。災害の最も恐ろしいことは人命が奪われることで、それ以上のことはないが、残された人間だって、どれだけの思いをするか。

 振り返れば、私の実家は町中から1つ坂を下がった、昔から職人が住む一帯で、台風になるとまっ先に水が来た。

 だからどの家にも、普段は使わない1.5畳ほどの木製の縁台が何基か備えてあった。

 あれは私が4才で、弟が2才の初夏のこと。前年に実父が亡くなり、母親は町の料亭の給仕になったので、夜、家にいるのは目の不自由な祖母と幼いきょうだいだけ。

 あの日は床上浸水に備え、縁台の上に家中の畳を積み、私たちはもう1つの縁台に布団を敷いて寝た。夜中、祖母の悲鳴で目が覚めた。

 見ると、縁台のすぐ下に水が迫っていた。あの濁流の恐ろしさは今でもハッキリと覚えている。つい先日、実家に帰った時、遊びに来た91才の母親の友人Nさんとこの時の話になった。

「大水で水を被ると、どこもかしこも泥だらけ。片付けるのは容易なことじゃねえよ。それを坂の上に住む町の人たちが見物に来るのがなんとも悔しくてなぁ」

「心配で見に来た」と口では言っても、坂の上の連中は決して手を貸すわけじゃない。

 日常が粉々に打ち砕かれた人の惨めさが、残虐な人の本性を見抜くのよね。

 8年前、東日本大震災の後、青森県に取材に行った。惨状を前にして、誰に何を聞くの。一部開通した三陸鉄道の車内で言葉を失っていると、「どちらからですか?」と、70代前半の女性が話しかけてきた。

 東京から取材に来たと言うと、「そうですか~」と目を細める。そして、しんみりと「震災からこっち、これまで仲よくしていた地元の人と話せなくなってねえ」と言う。

 自分の家族が流された人と、ほとんど被害がなくて津波がかかって汚れた車を洗っていた人とでは、会話がかみ合わない。

「どんな言葉もかけられないし、かけてほしくない。かえって外の人の方が気楽に話せていいんですよ」

 感じよく話されれば話されるほど、彼女の悲しさが私の胸いっぱいに広がって、被害の規模はどうだったか、とうとう聞き出せなかった。

 災害は家や町だけじゃない。人間関係も壊すんだよね。

関連記事

トピックス

「ミスタープロ野球」として広く国民に親しまれた長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
《“ミスター”長嶋茂雄さん逝去》次女・三奈が小走りで…看病で見せていた“父娘の絆”「楽しそうにしている父を見るのが私はすごくうれしくて」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ犯から殺人犯に》「生きてたら、こっちの主張もせんと」八田與一容疑者の祖父が明かしていた”事件当日の様子”「コロナ後遺症でうまく動けず…」
NEWSポストセブン
中居正広氏の兄が複雑な胸の内を明かした
「本人にとって大事な時期だから…」中居正広氏の実兄が明かした“愛する弟との現在のやりとり”《フジテレビ問題で反撃》
NEWSポストセブン
デフサッカー男子日本代表が異例の活動中止に…(時事通信フォト)
【デフリンピック半年前の騒動】デフサッカー男子日本代表が異例の活動中止「監督は聴覚障害に理解があるはずでしたが……」 ろう者サッカー協会が調査へ
NEWSポストセブン
長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督からのメッセージ(時事通信フォト)
《長嶋茂雄さんが89歳で逝去》20年に及んだ壮絶リハビリ生活、亡き妻との出会いの場で聖火ランナーを務め「最高の人生」に
NEWSポストセブン
中居正広氏の兄が複雑な胸の内を明かした
「兄として、あれが本当にあったことだとは思えない」中居正広氏の“捨て身の反撃”に実兄が抱く「想い」と、“雲隠れ状態”の中居氏を繋ぐ「家族の絆」
NEWSポストセブン
今年3月、日本支社を設立していたカニエ・ウェスト(時事通信フォト)
《カニエ・ウェストが日本支社を設立していた》妻の“ほぼ丸出し”スペイン観光に地元住人が恐怖…来日時に“ギリギリ”を攻める可能性
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《子どもの性別は明かさず》小室眞子さんの第一子出産に宮内庁は“類例を見ない発表”、守谷絢子さんとの差は 辛酸なめ子氏「合意を得るためのやり取りに時間がかかったのでは」
NEWSポストセブン
現在、闘病中の西川史子(写真は2009年)
《「ありがとう」を最後に途絶えたLINE》脳出血でリハビリ中の西川史子、クリニックの同僚が明かした当時の様子「以前のような感じでは…」前を向く静かな暮らし
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
六代目山口組の新人事、SNSに流れた「序列情報」 いまだ消えない「名誉職」に就任した幹部 による「院政説」
NEWSポストセブン
元女子バレーボール日本代表の木村沙織(Instagramより)
《“水着姿”公開の自由奔放なSNSで話題》結婚9年目の夫とラブラブ生活の元バレーボール選手の木村沙織、新ビジネスも好調「愛息とのランチに同行した身長20センチ差妹」の家族愛
NEWSポストセブン
宮城野親方
何が元横綱・白鵬を「退職」に追い込んだのか 一門内の親しい親方からも距離置かれ、協会内で孤立 「八角理事長は“辞めたい者は辞めればいい”で退職届受理の方向へ」
NEWSポストセブン