東京地検が家宅捜索したアパレル会社「GLADHAND」の東京都渋谷区元代々木町にある店舗(時事通信フォト)

東京地検が家宅捜索したアパレル会社「GLADHAND」の東京都渋谷区元代々木町にある店舗(時事通信フォト)

「中小アパレル店が人気店になって、創業者や社長が有頂天になり、店の売り上げを独り占めしたりすることはよくあります。人気店になるためには雑誌やテレビなどへの露出が欠かせませんから、僕らスタイリストや業界関係者に酒や食事を奢ったりすることも日常的にあり、そうすることで売れるんだから、接待にはさらに金が必要になるでしょう。アパレル業界は販売員などの給与が安いことで有名ですが、売れている店ほど代表が外や、自身の趣味にばかり金を使う。それでも税務関係はしっかりやっているところが大半ですが、今回はあまりに杜撰だったのでしょうね」

 確かに羽振りが良かったとはいえ、司法取引が適用されるほどの事件なのだろうか。不正競争防止法違反に問われた日立パワーシステムズの事件は、外国公務員への約3900万円の賄賂という国際政治問題にも関わる事件だ。カルロス・ゴーン被告の金融商品取引法違反事件は、数十億円にものぼる巨額の取引が関係している。どちらも社会的な意義を伴った事例だったが、第3例目は被害額が数千万円の単位で、知る人ぞ知るアパレル店でしかない。

 前出の大手紙記者は、比較的社会的影響や注目の少ない事案であっても、今後は司法取引を発端にした捕り物劇が増えて行くのではないかと話す。

「今回は数千万円という横領額ですが、もっと少額の横領、背任事案であっても、司法取引によって当局が動くことは十分に考えられます。一般に司法取引といえば、社会に大きな影響を与える事件に適応されると考えがちですが、市民の身近なところで起きている事件にも適応はされます。そのために導入された制度なんですから」

 横領や不正取引などの場合、会社などの組織の場合は不本意ながら実行役に「させられてしまった」人も少なくないだろう。そういった立場の人からみたら、正しく法律を守るための証言をする代わりに、法律上の潔白を保証してほしいと願うのも当然だろう。

 近年、巨大組織が関わる詐欺事件や、何人もの反社会勢力に属する人間たちが引き起こすような事件など、解決困難な事案が数多くある。そうした”捜査の壁”を打破すべく導入された制度ではあるが、私たちのすぐそばで”司法取引”の威力を目の当たりにすることだってあるかもしれない。「お天道様は見ている」というが、正直者が馬鹿を見ない社会が作られるのなら歓迎すべき制度だろう。

役員らが会社の資金を着服した疑いが持たれているアパレル会社「GLADHAND」本店(時事通信フォト)

役員らが会社の資金を着服した疑いが持たれているアパレル会社「GLADHAND」本店(時事通信フォト)

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