◆いなし技のデメリット
舞の海は巨漢力士を次々となぎ倒し「技のデパート」と呼ばれた
同じ頃、身長171cm、体重96.5kgの舞の海は、猫騙し、八艘跳び、三所攻めなど“技のデパート”の異名を取り、決まり手33は平成11年の引退当時、1位・栃錦(38手)、2位・3代目若乃花(35手)という横綱に次いで歴代3位。押し出しはわずか3番だった(いずれも幕内在位の記録)。平成2年夏場所で、舞の海に角界初黒星を付けた元前頭の大至伸行氏(51)が語る。
「稽古場で相手をじっと見て、研究していた姿が印象に残っています。何をしてくるか予想できないタイプなので、対戦相手から恐れられていました」
この頃、200kg超えの小錦や曙、武蔵丸が幕内に名を連ね、舞の海が小結に昇進した平成6年秋場所には幕内平均体重が153kgに。鷲羽山が活躍した昭和50年代前半と比べて約20kgも増加していた。平成8年の名古屋場所で舞の海が小錦との一番で左ヒザ靭帯を損傷したように、力士の大型化は小兵にとってケガと隣り合わせだった。
幕内42人中26人が160kg以上という超大型化が起こり、平均163.0kgまで増えた令和元年夏場所、168cm、99kgの炎鵬が新入幕を果たす。翌場所には技能賞を獲得した。一方、関西学院大学時代から“アクロバット相撲”と評され、期待の高かった175cmの宇良は2年足らずで入幕を果たすもケガに泣かされ、現在は序二段だ。
「小兵は相手の力を利用しながら、自分の体勢に持っていく傾向が強い。そのため、引き付けてからのいなし技に失敗すると、突進する相手をまともに受けて危険な状態に陥る。しかし炎鵬は正攻法でぶつかっていくので、ケガの可能性が少ない」(大至氏)
巨漢にも怯まない真っ向勝負で挑む炎鵬は、激しい生存競争に勝ち抜き、新たな歴史にその名を刻むことができるだろうか。
※週刊ポスト2019年12月13日号