騎手の精妙な指示に従わなくては好走おぼつかない。その訓練ができているかどうか。
3種類いると思う。まず、寄り添う厩務員を手こずらせる馬。中学とか高校の教室に喩えるなら、言うことを聞かない悪ガキ。服装も姿勢もだらしなく、注意力散漫。こういうのが試験で良い成績をとることはほぼない。一方で、背筋を伸ばして教員の言葉に耳を傾ける生徒は見込みがあるわけだが、問題は3つめ、面従腹背タイプだ。
真面目そうなのに実はやる気がない。集中しているようで気持ちは上の空。「頑張ります!」と言いながら何もしない(こういう輩ってどこにでもいますよね。まさに馬の耳に念仏)。パドックでの馬券検討の要諦は「面従腹背馬」の見極めだと言ってもいい。
周回の途中で「決めた!」と踵を返すのは早計だろう。やがてそれがわかるときがくる。「とま~れ」の合図まで、じっと張り込みを続けるのだ。
馬への指示者が厩務員からジョッキーに替わる瞬間。ここを見逃すテはない。
●すどう・やすたか 1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2019年12月20・27日号