そういえば今年6月まで韓国の巷では、日本に対してある程度の理解を示す声もよく聞こえていた。当時はまだ日本政府による対韓輸出規制が行われる直前で、元徴用工らへの賠償をめぐり文大統領が日本に強硬的な態度をあからさまに示し、韓国外交のイシューになっていた頃だった。筆者が街の食堂でお昼を食べていると、文大統領の対日政策を評して「なにもあそこまでやらなくていいのに。あれで関係が悪くなったら、困るのは庶民じゃないか」とソウル市民が話すのを何度も耳にしている。
しかし、そうした声は、7月に始まった日本からの輸出規制によってパタリと消え、NO JAPAN運動が始められた。その背景には、もともと苦しい韓国経済がさらに追い込まれるという危機感と、単純すぎるほどの“安倍嫌悪”が韓国社会にあったと思う。
一度そうなると、韓国社会では“日本寄り”のことを一切言えなくなる。インスタに日本の何かをアップすれば非難を浴びる。文大統領はその社会心理に乗って、GSOMIA破棄を発表し、韓国こそ日本の被害者だとアメリカにアピールして、元徴用工への賠償や慰安婦問題を、一気に有利に進めようとした。
だが、それが失敗であることが、メディアによってありありと報じられた。韓国にGSOMIAを破棄させまいとするアメリカの圧力が次から次へと繰り出されたのだ。GSOMIA失効目前、アメリカを訪問した韓国与野党の代表者3人とワシントンで面会したビーガン北朝鮮担当特別代表は駐留米軍の韓国側負担金の大幅な増額に言及し、「米韓同盟のリニューアル」といった強い言葉を用いるなど韓国政府に強いプレッシャーをかけた。
海外でどう見られているかを気にする韓国社会にとって、これはショックだった。自分たちが正しいと思ってやってきたことが、間違っていると宣告されたに等しいからだ。
そのショックが落ち着いた韓国は、いま、少しずつだが、また日本に関心を向けつつある。近いうちに日韓首脳会談があるはずだが、そこで文大統領がどんなメッセージを発するにせよ、その後、韓国は関係改善に向けて徐々に態度を軟化させて、少しでも自分たちに有利になるように取り入ってくるだろう。それもまた、韓国の「民意」だからだ。