◆アメリカ独立戦争で騎兵隊を率いた将軍は女性だった
アメリカ独立戦争(1775-1783)の勝利は、反イギリスの立場から本格派兵したフランスやスペインに加え、ヨーロッパ中から参集した多くの義勇兵の支援に拠っていた。陸軍総監として素人の寄せ集めをプロの戦士集団に鍛え上げたプロイセンの陸軍大尉フレデリック・シュトイベンや、ポーランド出身で騎兵隊の指揮官を務めたカジミール・プラスキ将軍の名がよく知られている。
4月に放映されたアメリカのケーブルテレビのドキュメンタリー番組で、プラスキ将軍が女性だった可能性について言及された。将軍の遺骨は米南部ジョージア州サバンナにある記念碑の下に納められていたが、移設が決まったのを機に再調査を実施したところ、その骨盤は明らかに女性のものだったというのだ。兄弟の孫娘のミトコンドリアDNAとも一致し、負傷個所やその他の身体的特徴も一致することから、遺骨が当人のものであることは間違いないという。
調査にあたった研究者たちは、彼女は生まれたときから男性として育てられ、自身も性別を意識することなく成長したのではないかと推測している。
◆19世紀の連続殺人犯「切り裂きジャック」の正体特定か
DNA解析技術の向上は多くの未解決事件に光を照らしている。1888年の8月から11月の間に少なくとも5人の売春婦を惨殺し、英国ロンドンを恐怖のどん底に陥れた連続殺人犯「切り裂きジャック」について、3月、医学誌『Journal of Forensic Sciences』に掲載された法医学調査報告書で衝撃的な結果が発表された。当時23歳だったポーランド人理髪師アーロン・コスミンスキーが犯人だというのだ。
コスミンスキーは犯罪歴と精神病歴があり、ひどく売春婦を憎んでいたことから、事件当初から容疑者として浮上していたが、決定的な証拠に欠けるため逮捕には至らず、1919年に強制収容先の病院で死亡していた。
今回決め手となった証拠は、4人目の被害者の近くに落ちていたショールに付着した血液と精液だが、これに関して早くも疑問の声が挙がっている。そのショールが被害者のものとは限らないことに加え、鑑定に用いられたミトコンドリアDNAでは個人の特定には至らないというのがその理由。真相の解明はまだ先になりそうである。
世界史をめぐる2019年の新発見は、科学の進歩を実感できる年でもあった。DNA解析技術の向上に加え、ドローンや衛星からの観察が発見につながったケースも多い。2020年には同様の発見報告がさらに増えることだろう。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など著書多数。最新刊に『ここが一番おもしろい! 三国志 謎の収集』(青春出版社)がある。