女性目線で作り上げたダイハツ「ミラトコット」だが…
●ミラトコット(ダイハツ)
「エフォートレス」をキーワードに、女性のみで構成された企画チームを立ち上げ、女性目線で作り上げた女性のためのクルマ──という当初のPRの仕方がまずかったかどうかは分からないが、ダイハツが2018年に発売した軽ベーシック「ミラトコット」はクルマのできの良さとは裏腹に、すっかり苦戦を強いられている。
販売台数は低価格軽セダンの「ミライース」との合算で発表され、ダイハツもトコット単独での数字は明らかにしていなので正確な販売台数は不明だが、ダイハツ関係者も新車販売を委託された業販店の経営者も、想定外のこけっぷりだったと口を揃える。筆者の出身地である鹿児島県でも、今や登録ずみ未使用中古車として特売の目玉にされる有り様である。
このトコットの問題は、顧客のターゲッティングと実物の出来が著しく乖離していたことだった。「カワイイだけではダメ。女子が求めているのはホンモノ感よ!!」「男子が女子のものを考えたって女子のクルマは出来ないわ!!」等々、企画をまとめた女性が熱弁を振るっていた。
その結果出来たトコットは、掛け値なしに素晴らしいクルマだった。フロントウインドウとバックドアの傾斜の均整が見事なスタイリング、懐が深くスタビリティに優れたハンドリング、疲れにくいシートや明るいインテリア。たった52馬力のエンジンを積むミニカーなのに、高速から市街地、山道までオールマイティ。遠乗りも余裕しゃくしゃくなのである。これが120万円台のクルマだなんて、普通車のメンツはどうなるのかと思ったほどであった。
だが、トコットがそういうクルマだということは、実際に買って遠乗りしないと分からない。これだけ「女子」を連発されたら、内心欧州ベーシックみたいだなと思ったとしても、男子はまず引く。一方で、販売状況を見る限り、女子はホンモノ感よりカワイイを選んでいるようだ。
ダイハツもストラテジーのミスに気付いたのか、途中からユニセックス(性別不問)をキーワードにし始めたが、時すでに遅し。トコットはミニカーとして、ホンダ「N-ONE」と並ぶ類稀なるロングラン資質を持ちながら、それを理解されないまま終わりそうな気配だ。これもまた、あまりにも惜しい低迷モデルであった。