マイル(1400メートルでも)以上のレースでは、道中にタメを作らなくてはいけない。スピード頼みの一本調子では力強くゴール板を駆け抜けられない。タメを作るのは馬ではなく騎手。騎手の指示に素早く反応できることが肝要である。パドックや地下馬道でのチェックポイントは「人の言うことを聞けるかどうか」に尽きる。馬耳東風では勝利は覚束ないのだった。
さてときおり、馬道を進む群れが馬番順でないことがある。許可を得て先出しなり最後尾なりを選んでいる。中には騎手が跨ったとたんに周回せずにパドックから去る馬もいる。こういうのは、「ルールを守れない」=「人の言うことを聞かない」ではなかろうか?
どうも、そうとも言い切れぬようなのだ。単独で落ち着いて本馬場に下ろし、自分のペースで返し馬をやらせたい意図だが、我がままを通したおかげで快走するケースもある。このへんが競馬の奥深さなのかもしれない。順番逸脱馬がどう走ったのか。きちんとデータをとってみたいものだ。
地下馬道を馬たちが通過したあとも忙しい。こっちもすぐに本馬場に走る。ここはダッシュだ。検討の総仕上げ、返し馬を見るのだ!
●すどう・やすたか 1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年1月17・24日号