菅義偉氏は”粛清”の対象?(時事通信フォト)
安倍―菅の権力バランスに決定的な影響を与えたのが東京地検特捜部のIR汚職捜査だ。二階派の秋元氏が逮捕され、「菅―二階」陣営が直撃されただけではない。菅氏にとってより大きな打撃は権力基盤だった検察に対するグリップが効かなくなったことだ。
菅氏の権力を支えてきたのは、霞が関の中央官庁幹部の人事権を握ったからだ。法務省人事を通じて政治家にとって怖い存在である検察に強い影響力を持ち、政官財界ににらみを利かせてきた。
ところが、この土壇場で法務・検察の逆転人事が固まった。菅氏に近く、政界捜査の“ストッパー役”とみられてきた検察ナンバー2の黒川弘務・東京高検検事長が2月に退官し、後任に菅氏の“天敵”ともいえる林真琴氏(現・名古屋高検検事長)が就任して政界捜査をコントロールする立場に立つ。ノンフィクション作家の森功氏が語る。
「黒川氏は菅さんとのパイプが太く、“官邸の代理人”などと呼ばれている。法務官房長時代、検察が首相側近の甘利明・元経済再生相の口利き疑惑や下村博文・元文科相の加計学園からの裏献金疑惑を形だけの捜査で終わらせた。菅さんは政権を守るために黒川氏をトップの検事総長に就任させたかったと思うが、河井前法相の捜査やIR汚職捜査など、官邸を取り巻く状況の変化で検察人事への介入が難しくなり、結果として黒川氏は今年2月7日に定年を迎えて退官する。
後任の東京高検検事長には黒川氏のライバルの林真琴氏が就任し、林氏はさらに検事総長への就任も確実視されています」
次期検事総長候補の林氏はもともと法務事務次官候補だったが、菅氏に次官就任を拒否され、かわりに同期の黒川氏が次官に抜擢された。いわば菅氏に煮え湯を飲まされた人物だ。菅氏にとっては、検察のIR汚職事件や側近の河井夫妻の公選法違反捜査が本格化するタイミングで、“天敵”ともいうべき人物が事実上の検察トップに座るのだから脅威だろう。安倍首相はこの人事を認めているとされる。
最高権力者から見れば、検察捜査さえも、権力争奪ゲームの有力な駆け引き材料なのだ。
※週刊ポスト2020年1月31日号