ライフ

家庭の浴槽での溺死者は年間5000人、事故回避のポイントとは

健康効果を高める入浴の仕方は?

 冬場に多い入浴中の急死事故。家庭の浴槽での溺死者は年間5000人を超え、入浴中の病死を含めると推定2万人近く。うち9割が高齢者だ。

 それでも日本人にとって温かなお風呂は何よりの癒し。さまざまな健康効果はもちろん、近年の研究では要介護予防効果も検証されている。だからこそリスクをしっかり回避して、入浴の効用を享受したい。

 長年、生活習慣としての入浴を研究する東京都市大学人間科学部教授で医学博士・温泉療法専門医の早坂信哉さんに聞いた。入浴の健康効果の筆頭は体が温まって血流がよくなること。実は、高齢者にとってこれがとても大切なのだという。

「血流は全身の細胞に必要なエネルギーを運ぶ重要な役割があります。生命維持に必要なホルモンを運ぶのも、体内の老廃物を排出するのも血流。お風呂にゆっくり浸ると関節などの痛みが楽になったり、疲れが取れて元気になったりするのは、血流がよくなったおかげなのです」(早坂さん・以下同)

 活動量が減る高齢者は、血流が悪くなることでもさまざまな体の不調が顕著になるのだ。

「体が温まると副交感神経が優位になりリラックスできます。お湯の浮力で筋肉の緊張もほぐれるのです。また入浴で体温が適度に上がると、浴後90分ほどで体温が下がるので、このタイミングで布団に入ると質のよい睡眠が得られます」

 血行促進、リラックス、質のよい睡眠と、うれしい健康効果がそろう入浴だが、一昨年末には、この効果を示す疫学的調査結果が早坂さんらの研究で明らかになった。

「千葉大学との共同研究で、北海道、愛知県など18の自治体で要介護認定を受けていない65才以上の男女約1万4000人を対象に3年間追跡調査したところ、毎日湯船に浸って入浴する人は、週2回の人に比べて要介護認定に至るリスクが約3割減、うつ発症も約3割少なかったのです。

 高齢になると心身になんらかの支障が出て、活動性が低下し、それが要介護の引き金になります。毎日の入浴で少し痛みが楽になる、少し元気が出るといった小さな積み重ねが、高齢者には大きな支えになったと考えられます」

 ちなみに早坂さんが実施した別の調査(静岡県の6000人)では、毎日湯船に浸る人は幸福度が高いという結果も。やはり体調のよさや睡眠の質の影響と考えられるという。

◆事故リスクの回避には、数値をチェック!

 問題は入浴事故のリスクだ。事故回避のポイントを聞いた。

「特に寒いこの時期、高齢者にとってリスクが高いのがヒートショックです。急な温度変化により血圧が急激に上昇し、最悪は心筋梗塞や脳卒中などを起こします。言うまでもなく“温度差”が元凶。重要なのは温度を感覚で捉えるのではなく、数値で管理することです」

 温度差が問題になるのは、暖かいリビングと脱衣所・浴室。体温と湯の温度。寒い脱衣所で裸になると血圧が+30、熱い湯にドボンと入れば+10、トータルで血圧が40~50上がれば高齢者には命取りだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト