調子にのり、言わなくてもいいことを広言してしまう。そんな状態を、日本人は「口がすべる」という言いかたで、よくさししめす。まるで、罪を「口」へなすりつけるかのように。上調子となった当人の精神は棚へあげてしまう。そういう慣用句が、日本語ではまかりとおっている。「筆がすべる」と、失言を筆記具のせいにする言いかたも、なくはない。
心や内面ではなく、身体や道具へ責任をおしつける。そんなイディオム群に、われわれの言語生活はとりかこまれている。「浮気の虫がわく」、「女に手がはやい」といった物言いに。こういう環境は、日本人の民族性にどのような影をおとしているのか。そんなことを考える素材として、この本は読みおえた。
※週刊ポスト2020年2月21日号