二席目の『笑わない男』は、新しく赴任してきた支社長のダジャレやジョークに一切笑わない部下に手を焼いた上司が、「ユーモアを理解する人間になるように」と、この男を社命として「笑って健康塾」に通わせる噺。塾長が連発するダジャレに「どこが面白いのかわからない」と憮然とするこの男、てっきり古典落語『庭蟹』に出てくる「洒落がわからない旦那」みたいな人かと思っていたのだが、実はそうではなかった。「シャレはやめて言葉遊びをしましょう」と塾長が方向転換してからの意外な展開、そしてヒネリの効いた結末。この発想は見事だ。
ところでこの会には文枝の弟子で東京に拠点を置いている桂三四郎も出演していた。この日演じたのは、キリスト教系大病院の跡取り娘の女医と寺の跡取り息子が結婚する『YとN』。二人の会話だけで進行する噺で、漫才風の応酬が実に可笑しい。
この3日後には「シブラク」で三四郎の『△』という噺に遭遇、高校教師が出来の悪い生徒たちを卒業させるべく苦心するコント風の一席だった。三四郎の新作は落語というより完全に「上方のお笑い」の匂いがして、他の上方の新作派とも異質に思える。普遍的な創作落語の文枝にこういう弟子がいるのも興味深い。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2020年2月28日・3月6日号