そんな彼らが口を開いてくれたのは、〈時代の空気の大きな変化〉もあったと、中村氏は言う。
「駅の浮浪児や傷痍軍人といった今まで何となく継承されてきた記憶が途絶え、今後は自分たちの存在自体、ないことにされていくのではないかという焦りや怒りがあるようでした。まして今は孤児の苦しみさえ自己責任論で語る時代ですし、だから今まで言えずに来たことも含めて託してくれたのだと思います」
彼ら孤児につらくあたり、絶望させた大人もまた生きるのに精一杯だったのかもしれず、そこまで人を追い込んでしまう戦争に改めて恐怖と怒りを抱かせる労作だ。
【プロフィール】なかむら・みつひろ/1984年東京生まれ。東京大学公共政策大学院修了後、NHK入局。大阪放送局報道部、国際番組部等を経て、現在社会番組部ディレクターとして『クローズアップ現代+』や『NHKスペシャル』などを制作。『“駅の子”の闘い~語り始めた戦争孤児~』で2018年度ギャラクシー賞選奨。他の担当番組にNスペ『都市直下地震 20年目の警告』、BS1スペシャル『激動の世界をゆく 世界は北朝鮮をどう見るか』等。175cm、67kg、B型。
◆構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2020年3月20日号