なぜそうなるのか。スポーツ心理学では、緊張と運動効率・競技成績の関係を解説する際に「逆U字理論」と呼ばれる仮説が用いられる。ストレスや緊張が適度にかかる時に選手のパフォーマンスが最大化する一方、それらが低すぎても、高すぎても、成績が出ないというものだ。
「応援が過度のプレッシャーになり、選手のパフォーマンスが下がることがあるわけです」(同前)
クロスカントリースキーとライフル射撃を組み合わせた競技で、冬季五輪にも採用されるバイアスロンを対象とした研究もある。英国の研究者らが16シーズン分の世界大会を分析した結果が2019年に公表された。この研究では男子220人、女子217人のプロ選手の成績を検証し、応援する観客が多くて心理的プレッシャーが大きい自国開催の試合で、より多く射撃の的を外していることを明らかにした。
また、米大リーグのワールド・シリーズでは、第7戦でホームチームの勝率が4割台に下がる。“チャンピオンシップ・チョーク”と呼ばれる現象で、本拠地の大声援を背に優勝が目前になると、窒息(チョーク)したような状態になり、本来の実力が発揮できないために起きるといわれている。
「過去の多くの研究を見渡すと、総じて『観客がいないほうがパフォーマンスは上がる』といえるのです。もちろん、応援の受け止め方には個人差があるので、今後、プロ野球やJリーグで無観客試合が開催されれば、“無観客の時だけ絶好調の選手”が現われるかもしれません」(同前)
◆審判への影響は?
一方で、応援が選手の成績を向上させたという実験結果もある。2018年に高校ハンドボール部の紅白戦で、前半を無観客、後半を生徒らの応援を入れて実験したところ、後半は一人ひとりの走行距離やステップ数などに約20%ものパフォーマンス向上が見られた。
「選手には実験ということを伏せておいて、後半に突然、体育館を埋め尽くすほどの生徒らが応援を始めたところ、選手たちは驚きながらも活発にプレーしました」(実験を行なった運動通信社)