◆「往診できません」
「寝たきり」の人や一人暮らしで病院に通うのが難しい人には、「訪問医療」の制度がある。医師や看護師が患者の自宅を訪問して治療や検査、薬の処方を行なう、いわゆる往診だ。
厚労省は2025年には自宅で療養する患者が100万人に達すると予測し、がんや脳卒中などの回復期のケアから、糖尿病などの慢性疾患、緩和ケアや看取りまで訪問医療の拡充に力を入れており、対応している病院は少なくない。
訪問医療の恩恵を受ける患者は、「通院」による感染リスクとは無縁のはずだが、新型コロナの感染拡大はこの分野にも影響を与えつつある。訪問医療の最前線を担うベテラン医師が語る。
「現状は仲間の医師もまだ平常通りに往診を続けています。非常に心配なのは感染者が増え続けた時です。たとえ家から出ない寝たきりの患者さんであっても、家族や見舞いの親戚、デイサービスなど介護施設の職員が感染することで、濃厚接触した患者さんに感染するリスクが高まっていく」
デイケア、デイサービスなどと訪問医療を併用する利用者は少なくないが、すでに名古屋市ではデイサービスでの集団感染も確認された。
「こうした例が増えると、訪問医療の医師は対応が難しい。患者さんを診る時にゴーグルや防護服を着用するわけにはいかないし、もし、自分が感染したらその後、他の患者さんを診られなくなる。離島や僻地に住む患者さんにとって訪問医療は命綱ですから、医師が感染するリスクを取るわけにはいかない。
私としては、もし、感染が疑わしい患者さんがいたら、他の多くの患者さんへの診療を続けることを最優先して、往診は一時中止にせざるを得ない。他の医師もそう判断する人が多いのではないでしょうか」
新型コロナの感染を恐れて通院できない患者にとっても、病気が悪化したときは訪問医療が最後の砦となる。
※週刊ポスト2020年4月3日号