「官邸の守護神」と異名をとる黒川は、安倍内閣で法務省の官房長や事務次官を6年半以上も務め、政権と検察の橋渡し役を担ってきた。公文書の変造や背任容疑のかかった森友学園の国有地売買で大阪地検が捜査したときも、その存在が囁かれた。
実際に黒川がどのような動きをしたのかは明らかにはなっていない。だが、安倍政権では過去も官房長や事務次官人事に介入してきた。さまざまな不祥事に揺れる政権が守り神を検事総長に据えれば安泰、と考えたのではないか、そう勘繰られても仕方ないほど、今度の定年延長はあまりに酷い。
官邸主導の名の下、官僚たちは唇が寒く、政権で横行する不条理に声を上げない。しかし近畿財務局職員の死から2年、その遺志が検察の不起訴にした38人の財務省幹部たちを改めて民事の法廷に引きずり出す。崩れゆく霞が関から何が飛び出すだろうか。
【プロフィール】もり・いさお/1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身。2018年『悪だくみ「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。その他の著作に『官邸官僚』など。
※週刊ポスト2020年4月10日号