半面、日本の頭脳と持ちあげられてきた財務官僚たちの堕ちた姿は、昨今の霞が関のあり様を象徴する出来事のように映る。かつて大蔵一家と呼ばれて結束を誇り、日本の政策の舵を握ってきた財務省には、まるで組織としての一体感がない。
その財務省に代わり、首相の側用人らが意のままに政策を動かしてきた。森友問題の調査についてある財務官僚に尋ねた。
「財務省内でも、佐川さんが自発的に文書の改竄を指示したなんて誰も思っていません。霞が関の役人は官邸からの圧力電話をしょっちゅう受けていますから、何らかの力が働いているのは肌で感じています。世間が納得しないのもわかります。しかし、当人は省内の調査に対し、本当に上からの圧力については口をつぐんでいる。そこで調査が止まってしまうので、どこまで行っても真相にたどり着かないのです」
◆常に官邸のほうを見る
これこそ閉塞感というのだろう。そのせいで心ある霞が関の官僚たちの不満は募る一方だ。別の官僚はこう愚痴る。
「たとえば昨年10月の消費税増税のときにしてもそう。景気対策のためにキャッシュレスで買い物すれば、2~5%ポイント還元するという発案者は経産省の新原(浩朗・産政局長)で、それをバックアップしたのが首相補佐官の今井(尚哉)。社会保障のための増税ですから、財務省の基本はそんな財政負担など反対なのですが、新原が首相に泣きついて決まりました」
経産内閣と呼ばれる安倍政権では、経産官僚たちが幅を利かす。新原は女優・菊池桃子の亭主である。官邸官僚の頂点に立つ今井に引き立てられ、いまや事務次官候補として名が挙がっている。産政局長はかつて柳瀬が務めたポストだ。もっとも肝心の政策はさっぱり。景気対策で導入されたポイント還元のはずが、GDPの年率マイナス7%という景気の落ち込みは周知の通りである。
「ポイント還元で財務省が反対する中、賛成に回ったのが、太田主計局長です。次の事務次官になるためには、今井や新原たちを敵に回したくないからでしょうが、あまりに露骨。森友問題のときもそうでしたが、常に官邸のほうを見て仕事をするので、省内にはずいぶん反発があります」