当初の予定を10分近く過ぎたときのことだ。皇后はベッドの枕元に置いてあった写真を手に取った。それから写真に写っている一人ひとりを指さし、名前を挙げていった。すると、橋本は少し曖昧な発音ではあったが、「あなたは美智子さまかねェ」と確かに言ったそうだ。
「近くにいた施設の人たちも、これには驚いていましたよ」
写真は橋本の誕生日の際に撮られたもので、そこに映し出されていた人々こそが、語学奉仕団のメンバーだった。
このように「1964年のパラリンピック」に深くかかわった上皇后にとって、東京での2度目のパラリンピックは特別な意味を持っているに違いない。それは渡邉氏が語ったように、「皇后」という立場を離れたいま、これまでの長い歩みの一つの「原点」を照らし出す大会であるはずだからである。
取材・文/稲泉連
※女性セブン2020年4月9日号