◆コメディアン志村けんの音楽愛

 ドゥーワップ、R&Bの代表的なコーラス・グループとして知られるアメリカのThe Driftersに名前をあやかり、1956年ごろより「サンズ・オブ・ドリフターズ」として活動を始めたドリフターズは、もともとは坂本九らが在籍したこともあるロカビリー主体の音楽バンドだった。しかしメンバーの変遷を経ていかりや長介がリーダーに就任した1965年ごろになると、コミカル路線がメインになっていた。

 かねてよりドリフターズへの憧れを抱いていた志村は、1968年にいかりやの自宅へと赴き、直々に弟子入りを志願する。ほどなくその熱意を買われてローディーとして雇われると、それから約5年後にはメンバーの荒井注が「体力の限界」を理由に脱退し、入れ替わるようにして1974年に正式にドリフターズへと加入することになる。

「全員集合」の収録風景。右端が志村さん(時事通信フォト)

 ドリフターズはそれまで、軍歌や歌謡曲、民謡などをコミカルにアレンジした楽曲を中心に演奏していた。しかし1976年にリリースされたシングル・レコード「ドリフのバイのバイのバイ」では、「ウワーオ!」「ドゥ・ザ・ハッスル!」「ゲロッパ!」といった叫び声が入るなど、明らかに以前とは毛色が違っていた。ブラック・ミュージックをこよなく愛する志村の音楽趣味が反映されていたのである。

 当初は新メンバーということで思い通りに笑いが取れずスランプに陥ることもあったようだが、『8時だョ!全員集合』で歌った「東村山音頭」をきっかけに一躍脚光を浴びることになる。自身の出身地でもある東村山市で制作された音頭に、強烈なシャウトを織り交ぜるなど大胆なリメイクを施した楽曲が大ウケしたのだ。

 さらに志村によってドリフターズの音楽性はソウル/R&B/ファンク色を強めていく。『8時だョ!全員集合』内のコント「ヒゲダンス」で用いたBGM「『ヒゲ』のテーマ」ではテディ・ペンダーグラスの楽曲「Do Me」のファンキーなベースラインを借用。また「ドリフの早口ことば」ではウィルソン・ピケットの楽曲「Don’t Knock My Love」を引用して日本語ラップの先駆けのような音楽を完成させている。

◆音楽ファンをも唸らせるBGMの選曲

 音楽に対する愛はドリフターズでの活動だけにはとどまらなかった。1979年から1980年代にかけてシンコー・ミュージックから刊行されていた音楽雑誌『jam』では、ライターとしてアルバム・レビューを担当していたこともあるのだ。1980年に同雑誌でのインタビューに答えて志村は、「音楽が身についてないと、現在の仕事はダメみたいですね。特にテンポの面でね」と述べ、次のように続けていたことがある。

「リズムを知ってないと、間とかいうことがわからないみたいですね。ただ早いだけでもダメなんですけど、遅い時は遅い時なりに、間とかテンポがありますからね。それに間をはずすってあるでしょ。あれもリズムを知ってないとね。お客さんが意表を突かれて笑うんですから」(『jam』1980年9月号)

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