志村にとって音楽は単なる趣味ではなく、むしろ彼の芸に欠かすことのできないリズムの妙味をもたらすものとしてあった。お笑い評論家のラリー遠田氏も、自身のTwitterで喜納昌吉&チャンプルーズの「ハイサイおじさん」をもとにしたネタ「変なおじさん」のリズミカルな語感を引き合いに出しながら「鋭い音楽的センスに裏打ちされていた」と述べている。

 笑いと音楽の関係についてさらにラリー遠田氏に訊ねると、やはり「志村さんのコントには歌や音楽が効果的に使われています」という。

「志村さんは著書の中で『音楽をプラスすると笑いが強くなる』という持論を語っていました。笑いを増幅するために音楽を効果的に使うことを考えていたのです。コントのときに流すBGMにも人一倍こだわり、自分で選曲をしていました。テレビでコントの収録をするときには通常、編集時にあとからBGMを入れるものですが、志村さんはコントを演じている現場で音楽を流して収録していました。その方が演じる側の気分が高まり、コントの出来が良くなるからです」(ラリー遠田氏)

 先に述べた「ジャンケン決闘」や「ヒゲダンス」のほかにも、BGMに合わせて食事したり踊ったりするネタをはじめとして、志村のコントには音楽を効果的に使用することで視聴者の意表を突き、笑いを生み出すものが多数ある。ときには音楽ファンを唸らせるような選曲がなされることもありつつ、どれもリズミカルな感覚をもとにした絶妙なタイミングによって成立するパフォーマンスとなっている。そのためにも現場でリアルタイムにBGMを流す必要があったのだ。

 志村けんは音楽的な要素をふんだんに散りばめることによって多くのファンに笑いをもたらした。あるいは笑いを通して数え切れない人々にファンキーな音楽と新鮮なリズムを届けてくれた。もしも彼にこうした音楽的センスがなかったとしたら、少なくとも、いまだにジャンケンがちょっとばかりやりにくい世の中のままだったことは間違いない。

 わたしたちはこれからも、ジャンケンをする際に「最初はグー!」と言い続けることだろう。そしてそのたびに、稀有なコメディアンの姿をふと思い出す。(一部敬称略)

●取材・文/細田成嗣(HEW)

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