「実はポストモダンの基本もノスタルジアにあって、モダンはもう手に入らないという感覚に基づいたわかりやすい話なんです。

 人は印象的な出来事に出会うと、それと似た経験を過去や未来に探して生きようとします。新型コロナの影響下の空気の中で、3.11の頃を思い出すとかもそうですよね。ハイカルチャーとサブカルの区別もあまり意味をもたなくなった現代において、小説でも評論でも、とにかく作品を生み続けることが、100年前と100年後のノスタルジアを繋ぐと僕は思うのです」

 ゴダールの『勝手にしやがれ』がリチャード・ギア主演『ブレスレス』としてアメリカでリメイクされ、さらにその仏語小説版が『勝手にしやがれ、メイド・イン・USA』となる事態を、〈過剰な商業主義的態度〉と揶揄するのは容易い。だが、本書の目的は〈正統的な「映画愛」の持ち主〉に疎まれ、俎上にも上らなかった作品の再評価にこそある。批判一辺倒の旧来的で20世紀的な態度からの解放を、波戸岡氏は後世のために飄々と目論むのだ。

【プロフィール】はとおか・けいた/1977年生まれ。千葉大学卒。慶應義塾大学大学院後期博士課程修了。博士(文学)。明治大学理工学部教授。「理系の学生に語学と各々の専門領域を教えるのがこの教室で、実は教える側から芥川賞作家が3人も出ている面白いところなんです」。著書は他に『ピンチョンの動物園』『コンテンツ批評に未来はあるか』『ラノベのなかの現代日本』『ロケットの正午を待っている』『教師の悩みは、すべて小説に書いてある』等。172cm、62kg、AB型。

構成■橋本紀子 撮影■国府田利光

※週刊ポスト2020年4月10日号

関連記事

トピックス

長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン