M-1の歴史は、言い換えれば、スピード化の歴史だった。テンポが早ければ早いほどボケをたくさん詰め込むことができるし、それだけ笑いの数も多くなる。スリムクラブはその逆を行ったのだ。
声を発していないにもかかわらず、客の笑いが途切れることはなかった。審査員の松本人志も大爆笑していた。真栄田はM-1の予選と決勝の違いをこう語る。
「決勝は審査員がいる。お客さんも、審査員の表情を見てる。はっきり言えば、松本さんが笑ってるかどうかを見ている。だから、松本さんを笑わせたら勝ちですわ。松本さんがオッケーということは、神さまがオッケーということですから。それで、みんながおれらのファンになってくれたんだと思います」
内間はたっぷり間をとったあと、ようやく言うのだ。
「……してません。人違いだと思います」
そこで客席が爆ぜた。間で火薬をまき、言葉で引火する。そんな漫才だった。真栄田が説明する。
「内間には、たとえば、埼京線で、変なやつが近づいてきて、変なことを言われたら、どうなる? と。身の危険もあるから、一瞬、体が固まる。下手なこと言って逆上されても困るから、なかなか声も出ない。その感じを出そう、と。おれの言葉をまず胸に染み込ませて、染み込んだところでじわって出てくるものなら言ってもいいと言ったんです。そうしたら、ああなりました」
それにしても、つくづく不思議なコンビである。真栄田のいちばんのファンを公言する内間は、まるで、真栄田の隣という特等席で、ただ、大好きな真栄田の語りに聴き惚れているだけのようにも見える。
「あまりにファンファンしてて、ちょっとお前、無責任だろうという気持ちもあるみたいなんですけどね。もっと来いよ、みたいな」
スリムクラブの独特の間、独特な感性は、沖縄人ゆえかと思ったが、前事務所オリジン・コーポレーションの先輩であるひーぷーはこう否定した。
「いや、あいつらは特別ですよ」