◆インバウンドと無縁な地方百貨店の惨状
一時的とはいえ、インバウンド需要で潤った大手百貨店だが、地方の百貨店に“神風”は吹かなかった。
地方百貨店はスベリ台を滑り落ち、百貨店の倒産が話題を集めた。山形県の老舗・大沼は1月、自己破産を申請し、創業320年の歴史に幕を閉じた。これで山形県は全国で初めて百貨店が存在しない県となった。
墓碑銘を簡単に列記しておく。今年1月にはクロサキメイト(福岡県)、天満屋広島アルパーク店(広島県)、3月には新潟三越(新潟県)、ほの国百貨店(愛知県豊橋市)がシャッターを降ろした。
今後も閉店ラッシュは止まらない。8月には高島屋港南台店(横浜市)、西武岡﨑店(愛知県)、西武大津店(滋賀県)、そごう西神店(兵庫県)、そごう徳島店(徳島県)が閉店する。徳島県も「百貨店ゼロ県」に仲間入りする。また、2021年2月に、そごう川口店(埼玉県)、三越恵比寿店(東京・渋谷区)、同年9月、松坂屋豊田店(愛知県)もクローズする予定だ。
いずれも郊外のショッピングモールとの競争が激化する中、2019年10月の消費税率の引き上げがダメを押した格好だ。そのうえ、今回の新型コロナウイルスの感染拡大で、さらなる消費の下押しは避けられない。
全国百貨店協会に加盟している地方の百貨店のうち、直近まで3期連続で最終赤字に陥った11社の中には、大手百貨店では三越伊勢丹HD傘下の広島三越(広島県)や松山三越(愛媛県)の2社も入っているが、今回のコロナショックで軒並み売り上げの消失に見舞われている。
そもそも人口減少が著しい地方都市に立地する百貨店は、主な顧客が高齢者という構造的な問題もある。この先、新型コロナの重症化を懸念して、外出を控える傾向がますます強まれば、経営的に立ち行かなくなる懸念もある。だが、身売りしようにも、引き受け手がなければ、山形県の大沼のように法的整理を選択するしか道はない。