芸能

大林宣彦監督が故郷・尾道の映画館支配人に語っていた銀幕愛

映画を愛し、ファンに愛された生涯だった(時事通信フォト)

 映画界に大きな足跡を残し、“映像の魔術師”と称された大林宣彦監督が、4月10日に肺がんのため82歳で死去した。今日(18日)13:30から、“尾道三部作”の1本として知られる『時をかける少女』が日本テレビで放送される。2016年にステージ4の肺がんと診断され、余命3か月という宣告を受けながらも、なお反戦・平和への祈りを込めた作品を撮影し続けた大林監督。訃報に接して多くの映画ファンや関係者から悲しみの声があがるなか、その異色のキャリアをあらためて振り返ってみたい。

 1938年に広島県尾道市に生まれた大林監督は、幼少期からおもちゃの映写機に没頭し、1944年には6歳にしてアニメーション作品を制作している。翌1945年に日本は敗戦。近所の人が次々に亡くなったという暗い戦争体験が、のちの映画作りの原点となった。

 父に与えられた8ミリカメラを手に上京し、1956年に成城大学へ入学(1960年に中退)。自主制作の映像作品が評判を呼び、“フィルム・アーティスト”として日本のインディーズ・ムービーの端緒を開く。映画評論家の小野寺系氏は、大林監督の作家性を「流行監督として商業的にも成功を収めましたが、職人的な“映画屋”ではなく、アーティスト気質を持った映像作家というイメージ」と評した。

「自身で“映画作家”を名乗っていたように、職人としての自負が薄いため、映画の基本から外れた奇抜な演出に抵抗がありません。初めて劇場用の映画として監督した『HOUSE ハウス』(1977年)には、斬新かつ部分的にはチープともいえる視覚効果がふんだんに盛り込まれ、若い世代に好評を博した反面、年季の入った映画ファンを苛立たせました。日本ではあまり注目されていない作品ですが、海外ではカルト映画として人気があります」(小野寺氏)

 自主映画でアンダーグラウンド・カルチャーの寵児となった一方で、1960年代から同70年代にかけてはCMディレクターとしても辣腕を振るい、映画では起用できないような海外のスターを大胆にキャスティング。チャールズ・ブロンソンが出演した「マンダム」のCMは、社名が「丹頂」から変更されるほどの大ヒットとなった。大林監督いわく、CMとは「商品さえ写っていれば後は全くの自由」であり、「スポンサー付きの『個人映画』のようなもの」だったという。

◆“尾道三部作”が日本に与えた影響

 1980年代には商業映画の世界でも大成功をおさめ、地元・尾道を舞台にした『転校生』(1982年)、『時をかける少女』(1983年)、『さびしんぼう』(1985年)を発表。ロケ地をめぐるファンが尾道の街を賑わせた通称“尾道三部作”の魅力と後進への影響について、小野寺氏は以下のように解説する。

「起伏に富んだ地形と歴史的な家並みが残る尾道を、学生の恋愛を描く青春映画の背景にしたことで、ポップさに文学的な雰囲気が加味されているのが“尾道三部作”の特徴です。個人的なお気に入りは、大林監督らしい視覚効果とロケーションの渋さのせめぎ合いが魅力の『時をかける少女』ですね。のちに細田守監督版の『時をかける少女』や、『転校生』と似たモチーフを扱った新海誠監督の『君の名は。』がアニメーションとして高い評価を得ましたが、その源流は大林作品にあると言ってもいいと思います」

関連記事

トピックス

鮮やかなロイヤルブルーのワンピースで登場された佳子さま(写真/共同通信社)
佳子さま、国スポ閉会式での「クッキリ服」 皇室のドレスコードでは、どう位置づけられるのか? 皇室解説者は「ご自身がお考えになって選ばれたと思います」と分析
週刊ポスト
松田烈被告
「テレビ通話をつなげて…」性的暴行を“実行役”に指示した松田烈被告(27)、元交際相手への卑劣すぎる一連の犯行内容「下水の点検を装って侵入」【初公判】
NEWSポストセブン
Aさんの左手に彫られたタトゥー。
《10歳女児の身体中に刺青が…》「14歳の女子中学生に彫られた」ある児童養護施設で起きた“子供同士のトラブル” 職員は気づかず2ヶ月放置か
NEWSポストセブン
会談に臨む自民党の高市早苗総裁(時事通信フォト)
《高市早苗総裁と参政党の接近》自民党が重視すべきは本当に「岩盤保守層」か? 亡くなった“神奈川のドン”の憂い
NEWSポストセブン
知床半島でヒグマが大量出没(時事通信フォト)
《現地ルポ》知床半島でヒグマを駆除するレンジャーたちが見た「壮絶現場」 市街地各所に大量出没、1年に185頭を処分…「人間の世界がクマに制圧されかけている」
週刊ポスト
連覇を狙う大の里に黄信号か(時事通信フォト)
《大相撲ロンドン公演で大の里がピンチ?》ロンドン巡業の翌場所に東西横綱や若貴&曙が散々な成績になった“34年前の悪夢”「人気力士の疲労は相当なもの」との指摘も
週刊ポスト
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(インスタグラムより)
「バスの車体が不自然に揺れ続ける」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサー(26)が乱倫バスツアーにかけた巨額の費用「価値は十分あった」
NEWSポストセブン
イベント出演辞退を連発している米倉涼子。
《長引く捜査》「ネットドラマでさえ扱いに困る」“マトリガサ入れ報道”米倉涼子はこの先どうなる? 元東京地検公安部長が指摘する「宙ぶらりんがずっと続く可能性」
アドヴァ・ラヴィ容疑者(Instagramより)
「性的被害を告発するとの脅しも…」アメリカ美女モデル(27)がマッチングアプリで高齢男性に“ロマンス”装い窃盗、高級住宅街で10件超の被害【LA保安局が異例の投稿】
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト・目撃者提供)
《ラブホ通い詰め問題でも続投》キリッとした目元と蠱惑的な口元…卒アル写真で見えた小川晶市長の“平成の女子高生”時代、同級生が明かす「市長のルーツ」も
NEWSポストセブン
韓国の人気女性ライバー(24)が50代男性のファンから殺害される事件が起きた(Instagramより)
「車に強引に引きずり込んで…」「遺体には多数のアザと首を絞められた痕」韓国・人気女性ライバー(24)殺害、50代男性“VIPファン”による配信30分後の凶行
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《真美子さんと娘が待つスイートルームに直行》大谷翔平が試合後に見せた満面の笑み、アップ中も「スタンドに笑顔で手を振って…」本拠地で見られる“家族の絆”
NEWSポストセブン