安全な店を紹介する歓楽街の無料案内所も休止せざるを得なくなる(時事通信フォト)
「風俗業」が補償対象に含まれた現状でも、なお不満は残る。しかし、本田さんの店で働く女性たちに幾らかでも出るなら甘んじて受け入れるつもりだという。一方「風俗業」というものの現実が全く反映されていない、そう話すのは都内の複数店舗を展開するグループ関係者・M氏だ。
「偏見でもなんでもなく、夜の世界で働く人々には様々な事情があり、この世界でしか働くことができない、という方も多い、たった1~2日でも仕事を休むと生活が困窮するというパターンも少なくない。実際に補償金や給付が行われるまで数ヶ月かかるとなると、その間に生活は立ち行かなくなる。すでに生活が行き詰まっている人がいるというのに、あまりに現実を見ていません」(M氏)
さらに深刻なリアルを語ってくれたのは、千葉県内で営業する店舗の関係者・S氏。
「様々な事情で、昼の仕事や表立った仕事ができなくなり、こっち(の業界)で働いている女性、ママはたくさんいます。離婚したDV夫に借金を背負わされて…という人も本当にいて、そういう人が、グレーなところで、なんとか日銭を稼ぎなら子育てをしている。申告や納税がおろそかになっているパターンもあり、こういった人々は収入を証明しづらく、当然、給付や助成対象にはなりづらいでしょう。しかしそもそも、国や福祉から見捨てられ、生活保護も受けられないからこそグレーな世界で働くしかなくなったという経緯を、役人は知ろうともしない」(S氏)
補償や給付、助成金の支払いに関して、政府は「支払う」とはいっているものの、その対象の決定でさえ二転三転し、実際にどのようなプロセスを経てどれくらいの期間で国民の元に現金が行き渡るのか、いまだにはっきりしない。すみやかな給付を求める国民の声に、政府は「どうやったら給付できるか」というより「給付できない理由」を並べ立てるばかりで、ネット上では「ドケチ政府」などとも揶揄される。多少の貯蓄があれば、こうした動きについて、イライラしながらもまだ冷静に見てはいられるかもしれない一方で、切羽詰まった人たちはすでに行動に移し始めている。
「グレーな店舗で働いていたり、納税申告などを行ってない水商売従事者たちが、すでにネットを使った商売に走っている。感染を抑制するどころか、拡大させかねない。平時なら、なんとか踏みとどまっていた一線を簡単に超え始めています。コロナ感染の危険性が高まることはおろか、治安の悪化だって懸念される」(S氏)
これでもまだ、こうした女性たちの自業自得だ、という声が聞こえてきそうではある。しかし、彼女たちは結局、様々な事情から生活しづらくなり、さらに福祉に見捨てられた人々が多い。それでも、なんとか他人に迷惑をかけまい、そして子供をしっかり育てていきたいと歯を食いしばっていきてきた人たちである。申告や納税の部分が疎かになっていた事実はあろう。だが、福祉の恩恵という一般人とってはあって当たり前の見返りを受けられなかったこそ、そうした生活をせざるを得なくなったという現実を見ずに批判するのは、あまりに残酷だ。
「政府が言う基準に当てはまる人って、要は低賃金で長時間働いている非正規労働者だけ。中流、上流の人たちには関係のない話だし、ここにきて、奴隷に当てはまらない人たちは切り捨て。国民一人一人に等しく給付が行われるならまだしも、選別が行われている」(S氏)