仕事内容は明かしてくれないが、時給も高く楽な夜勤仕事だったので長く続けていたそうだ。しかし営業自粛の煽りで仕事はなくなった。
「講師のほうは大した金にはなってなかったけど、先生と呼ばれるのは悪いもんじゃなかった。俺も声優志望の連中には言いたいこと山ほどあるからさ。でもそれも学校がしばらくお休みで無し。再開しても、次にお呼びが来るかわかんないね」
声優志望の人が聞いたら、彼が言うことは夢のないみみっちい話と思うかも知れないが、声優に限らずクリエイターとはこういうものである。ごくごく一部の売れっ子や手堅く多くの仕事を得ているのでなければ他で稼ぐ他ないのだ。それでも私ごときがフリーランスで生活できていることを考えると、声優業界は極端かつ厳しすぎる世界だとは思うが。
「で、このままバイト先がないと、声優でいられないんだよね。完全に足洗ってフルタイムで働かなくちゃいけなくなる。変な話だけど」
なるほど、確かに変な話だ。声優と名乗るためにバイトをして、バイトがなくなったら声優は廃業してフルタイムの専業で働かなくてはならない。しかしこれが声優界の、とくに中高年崖っぷち声優の現実である。ロンドさんが声優でいるためには、バイト先があり、きっちり収入がないといけないのだ。なぜならロンドさんの声優としての収入はほとんどないのだから。私も何を言っているかわからなくなってくるが、とにかくこれまでの声優としての肩書といまでも声優ではあるというためには、ある程度自由の効くアルバイトという業態でなければならない、その働く先が、このコロナ禍でどこにもないのだ。
「実質引退状態の声優なんてごまんといるけどさ、さっきも言ったけど過去の実績がそれなりにあれば表向きは声優ではいられるからね。さすがにまだ降りる気はないし」
◆声の仕事は諦めたくないんだ
ロンドさんと考える。コロナでも求人している仕事で自由がある程度きく仕事 ―― 外出自粛や自宅待機、テレワークの影響で配送の仕事は人手が足りなそうだ。あとは慢性人手不足な上にコロナ騒動で逃げ出す人が続出のスーパーやドラッグストア、あとは清掃か。年齢の問題もあるし、コロナ禍真っ只中とあっては求人を出してはいても面接をしていなかったり、実際は採用を止めているところも多そうだ。そうでないところにはバイトのシフトを減らされたり待機させられたりで収入を減らした学生や若年フリーターが押しかけている。40歳を過ぎるとバイト探しも一苦労だ。
「だからいま動いてもしょうがないからね、アパートでぼーっとしてるよ。役者仲間とも集まれないし、アクティブでもないんで自粛も苦にならない。好きな音楽聞いて、ゴロゴロしてる」
見かけによらずインドアなロンドさん。
「声の仕事は諦めたくないんだ。声の仕事、好きだし」