◆個別の入試改革がもたらす未来
──頓挫した共通テスト改革をめぐっては、事業を受注したベネッセと文科省の関係に疑念の声が上がった。系列の福武財団の理事をされていることで、ベネッセと鈴木教授が癒着しているとの批判もあった。
鈴木氏:財団の理事は大臣補佐官を2018年10月に退官してから1年ほど経って、すべての意思決定が終わったのちにお受けしたものです。香川県が主催し、福武財団も助成している「瀬戸内国際芸術祭」で、文化政策のお手伝いをしてほしいという依頼があって引き受けました。私は、さまざまな文化関連政策にも携わってきましたから。理事には現香川県知事も名を連ねています。財団の定款を読んでいただければわかりますが、教育事業は別の財団で、この財団は文化・芸術事業に特化しています。私は、利益相反がないことを確認したうえで、文化関連の財団のほうをお引き受けした。教育関連の財団やベネッセ本体にはタッチしていません。しかも、公益財団法人なので、ベネッセからの独立性も担保されており、社外理事が公益性を担保しています。私は無給の理事で、なんらやましいことはありません。
世の中のためになると思ってお手伝いしています。現に、瀬戸内国際芸術祭は、国の税金にも頼らない、現代アートによる地域おこしの成功事例です。瀬戸内の方々にも、アジア・海外の方々からの評価もうなぎのぼりです。叩けることを探している人たちは、どんなことでも、ねじ曲げて批判の対象にするわけです。こんなことで批判されるなら、誰だって、公的な仕事は引き受けないほうがマシだと思うようになりますよね。最近は、良かれと思ってもやっても、結局、裏目になるので、日本の仕事は受けないようにしていて、海外の公的な仕事が増えています。
官僚だって同じで、世の中の人たちは官僚はいくら叩いても構わないと思って叩きまくっていますが、官僚だって人間で、あんなに理不尽に叩かれたら萎縮します。実際に若い官僚がどんどん辞めているし、公的な仕事をしたいと思って勉強してきた優秀な学生も、霞が関で働くことを敬遠しはじめている。あれだけ叩かれてリスペクトもされなければ、そうなります。彼らは引く手あまたですから、もうこの流れは止まらない。結果として、中央の政府・政治の劣化は加速します。国民がそれを選んでいるならば、それはそれでいいとは私は思います。今まで日本は、政府がおせっかいをやきすぎて、底上げを一生懸命やる国だったのが、めったやたらと叩かれて官僚が萎縮し、やる気を失い、加えて、財政の余裕もなくなり、政府が社会を支える力もどんどん衰退しています。こうして、格差がどんどん広がるのです。「自分の身は自分で守れ」という国になる。
大学入試改革でも、文科省が共通テストで全体の底上げをしようとしたら、大反対が起きて頓挫し、大学が個別にやることになった。そうなると、できる大学とできない大学でどんどん差が広がっていきます。